口腔機能発達不全症とは、明らかな摂食嚥下障害の原疾患はないものの、個人的、環境的要因により「食べる機能」「話す機能」「その他の機能」が十分に発達していないか、正常に機能獲得ができていないために専門的関与が必要な状態です。代表的な症状としては、咀嚼や嚥下がうまくできない、構音の異常、口唇閉鎖不全などが挙げられます2。 口腔機能発達不全症が保険収載された2018年から遡ること7年前の2011年に、国民が健康で質の高い生活を営むうえで不可欠な口腔の健康保持を目的とする「歯科口腔保健の推進に関する法律」4が制定されました。 翌年の中央社会保険医療協議会では「食べる喜び、話す楽しみ等、生活の質の向上を図るためには口腔機能の維持、向上が重要である。高齢期においては摂食・嚥下機能が低下しやすく、これを防ぐためにはとくに乳幼児期から学齢期にかけて良好な口腔・顎・顔面の成長発育及び適切な口腔機能の獲得を図ること、成人期・高齢期にかけて口腔機能の維持・向上を図っていくことが重要である」との指針が示されました。 「歯科口腔保健の推進」を実行するにあたり、日本歯科医学会は障がいのある子どもだけでなく、健常児においても「食の問題」が顕在化してきていると考えました。そこで、幼児・児童における摂食機能障害の実態把握、改善に向けた取り組みのた保護者にとってより身近で、相談しやすい「エキスパート」は歯科衛生士です。生活機能の困りごとへの指導や訓練は育児の悩みを解決する一助となり、モチベーションの向上にもつながり、子どもたちの口腔機能の問題をより早く、より良く導くことが可能になります。 本特集では、チェアサイドの観察と会話から口腔機能発達不全症を早期に発見し、効果的な指導を行えるような臨床のヒントをいくつか紹介します。口腔機能の発達には顎顔面の成長発育だけでなく、心身の成長発育など多くの要因がかかわるため、早期発見、指導・訓練だけですべてを解決することはできませんが、1人でも多くの子どもたちが等しくこの保険制度の恩恵に預かれるようになれば幸いです。ぜひ、歯科衛生士の皆さまには、子どもと保護者の身近なエキスパートとして、活躍の場を広げていただきたいと思います。めに「子どもの食の問題に関する調査」を2014年に実施しました3。この調査から、歯科医師は「子どもの食の問題は歯科で担うべきである」と考えている一方、保護者は歯科医師を子どもの食の問題の支援者、相談相手とは考えていないことや、保護者が身近な人に相談して解決しているが、実際は専門家の介入が必要なケースも想定されること、保護者が求めているのは育児のサポートであること、などがわかりました(図1)。 日本歯科医学会は「歯科口腔保健の推進」のためには以下のような項目が必要であるとしました。①国民に歯科医師は咀嚼機能(食べる機能)向上を担う口腔の専門家であることを34小児口腔機能管理は歯科衛生士の活躍の場 「食べる」「飲む」「話す」「その他;呼吸を助けるなど」は生活に密着した口腔機能です。そのため、子どもの日常生活でのちょっとした困り事や育児の悩みの理由が口腔機能発達不全症によることもよくあります。 令和6年度の診療報酬改定1で、歯科衛生実地指導料に「歯科衛生士が口腔機能に係る指導を行った場合の評価」が新設されました。しかし、口腔機能発達不全症の診断2に必須である、歯科がもっとも指導の対象としたい「食べる機能の問題」は、歯科医院で直接確認することが難しいうえに、「子どもの食の問題に関する調査」3(Column1参照)の結果からもわかるように、保護者は歯科医師を子どもの食の問題の支援者、相談相手とは考えていないことから、問題を拾い上げるのは難しいのが現状です。 一方で、保護者は育児のサポートを求めて身近な人に相談をしていることもわかっています。歯科医院において、Column1特集1口腔機能発達不全症が保険収載されるに至った経緯チェアサイドの観察と会話から発見する口腔機能
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