Illustration:おおの麻里理解し、特に嚥下機能や喀出機能が低下している場合の口腔ケアではリスク管理を徹底することが重要だと考えます。 高齢者の死因の第5位には肺炎が位置していますが(2020年)3)、肺炎で亡くなる高齢者のうち、70歳以上に限ると、その約8割は誤嚥性肺炎との報告も聞かれます。皆さんの歯科医院に通われている高齢の患者さんから、「最近うがいの時にむせやすくなった」「滑舌が悪くなった」「口が乾燥している」「口が汚れていることが多くなった」などの症状の訴えがあることはありませんか? こうした口腔機能の低下の訴えのある患者さんは、診療中の誤嚥のリスクが高い患者さんと言えます。また、訪問診療においても、介護を必要とする高齢者の口腔ケアはとても大切ですが、介護者が口腔ケアの正しい方法を身に付けていないと、口腔ケアを行うことそのものが誤嚥を誘発し、誤嚥性肺炎を発症させてしまう可能性があります。 ここでは高齢の患者さんの診療中に、あるいは要介護者へ口腔ケアを行う時に、誤嚥をしない・させないためのポイントを解説します。(出典:総務省統計局)February 2022 vol.46若林宣江Nobue WAKABAYASHI自治医科大学附属病院歯科口腔外科・矯正歯科歯科衛生士63図1 総人口に占める65歳以上人口の割合(上位10ヵ国)2021年の高齢者の総人口に占める割合を世界と比較すると、日本は世界でもっとも高い。患者の高齢化にともない、これからの歯科医療は、保存補綴処置を行うだけでなく、予防も含めた口腔機能管理を行い、口腔衛生状態を改善・維持することがいっそう重要になると考えられる。日本イタリアポルトガルフィンランドギリシャマルティニークドイツマルタ共和国ブルガリアクロアチア29.1%23.6%23.1%23.0%22.6%22.3%22.0%21.8%21.8%21.7%はじめに高齢の患者さんが増えるなかでより大切になる配慮 総務省統計局の報告1)によると、わが国の総人口(2021年9月15日現在推計)は、前年に比べ約51万人減少しています。一方、65歳以上の高齢者の人口は3,640万人と、前年に比べ約22万人増加し、総人口に占める割合は29.1%と、過去最高となりました。この割合の高さは世界一です(図1)。 歯科診療所の受診者についてもこの傾向は同様で、64歳以下の受診者は減少傾向にある一方で、65歳以上では経年的に増加しています(平成29年の厚生労働省による歯科診療所を受診する年齢階級別の調査)2)。今後、高齢の患者さんが歯科医院を受診する機会はますます多くなっていくことが予想されます。 高齢者は全身の免疫機能低下や摂食嚥下障害、身体機能の低下や認知機能低下などにともない口腔衛生環境が悪化し、思わぬ全身疾患を合併することがあります。高齢の患者さんの診察においては、高齢者の全身的な疾病を十分に口唇や頬粘膜、舌をよく噛む口腔内や義歯に食物残渣が多く付着するようになったテク
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