歯科衛生士 2022年3月号
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 S. mutansの口腔内への定着時期として、2つの「感染の窓」の時期が提唱されています。1つ目は生後19~31ヵ月の間、2つ目は永久歯としてもっとも早く萌出してくる第一大臼歯の萌出時期(6歳ごろ)です。ただし、う蝕リスクの高い人ではS. mutansの口腔内への定着がより早く起こっている可能性があります。アメリカインディアンの子どもを対象とした縦断的研究では、「感染の窓」の時期よりも早い生後16ヵ月までに58%の子どもからS. mutansが検出されています2)。 続いて感染源について、S. mutansは主として歯面表層に定着しますが、歯が生えていない乳児の舌からも同菌のDNAが検出されることや、歯が生える前の乳児の歯槽粘膜を異なる時点でスワブ(大きな綿棒)で拭った検体からも繰り返し検出されていることから、この細菌は粘膜表面にも定着するという報告があります3,4)。「まだ歯がない時期だから、う蝕原因菌が定着することはない」と油断するのは禁物です。 現代社会ではあまり見なくなりましたが、昔ながらの育児法では、母親がまず自分で食物を咀嚼してからその食物を乳児に食べさせるという方法を取ることがあります5)。S. mutansの定着に関する研究では、このような食事様式をとる場合、母親の唾液中のS. mutansの数が多いと、乳児の口腔内のS. mutansの数も多くなることがわかっています6)。また、菌株の遺伝子型を精度高く識別する方法によって調べた研究によると、S. mutansの母子感染率は50~85%程度であることが示されています7)。 一方、う蝕リスクの高い母親であっても、きちんとう蝕治療を受け、キシリトール入りのチューインガムを定期的に利用することで、子どもへのS. mutansの感染を効果的に減らすことができるという報告もあります1)。 なお、乳児がS. mutansに感染する場合、母親からの垂直感染以外にも、他のcaregiver(養育者)や保育園・幼稚園などの友だちからの水平感染もあることが報告されています1)。このことから、過剰なまでに母子のスキンシップを避ける必要はないという考え方が現在では主流となっています。ただし、生まれてくる子どもの口腔内にできるだけう蝕原因菌を多く繁殖させないための工夫をすることは重要ですので、家族にう蝕が多いご一家にお子さんが生まれる場合には、まず大人の口腔の環境整備と食事習慣の見直しを進めておくことを推奨するとよいでしょう。59March 2022 vol.46S. mutansの定着時期と感染源う蝕原因菌は、いろいろな人から感染する母子伝播についてはそれほど神経質にならなくてもよい

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