46連載内で紹介している文献を、web上で見ることのできるものはリンクつきでまとめました。https://www.quint-j.co.jp/web/shikaeiseishi/index.php これまで本連載でお話ししてきたように、患者さんの年齢や対象疾患(例:冠部う蝕なのか根面う蝕なのかなど)ごとに異なる個別のリスク要因によって、ブラッシング方法などの口腔保健行動や生活習慣全般についても、講じるべき具体的な対策が異なります。また、その患者さんの自制心に関する個性によって、どのような行動科学的アプローチが有効なのかも異なります。このように、口腔衛生指導(OHI)では、一人ひとりの患者さんに合わせたテーラーメイドの指導をする必要があるのです。 そこで役立つのが、第4回(5月号P.68)で解説したカリエスリスク評価(Caries Risk Assessment:CRA)です。ここでリスク因子として抽出される項目は、個々人によって異なります。抽出された各項目に対して、どのような対策を取ればよいのかも、その患者さんの認知能力や身体能力、家庭環境、社会経済環境などで異なります。これらをすべて考慮して、実施可能なプランを考え、その人が受け入れやすい方法でアプローチすることがテーラーメイドの指導なのです。 テーラーメイドのOHIで避けたいワードの筆頭が、「しっかりブラッシングしておいてください」です。現代の日本では、まったくブラッシングをしていない人は0.4%、毎日ではなく時々磨く人が1.5%で、95.3%の人が少なくとも1日1回以上ブラッシングしています1。それにもかかわらず、45歳になるまでに99.3%の人がう蝕を経験し、60代後半には60.5%の人が4mm以上の歯周ポケットを有する歯周炎有病者になるのです1。つまり、ほとんどの方はブラッシングをしているのに結果がともなっていないという状況なのです。そのような患者さんに対して、「しっかり」というあいまいかつ抽象的な言葉を用いるだけでは、結果を出すことができていない現在のブラッシング習慣の何が問題で、どのようにすればそれを改善することができるのかがまったくわかりません。このようなアドバイスを受けた患者さんは、結果が出ない不適切な方法のまま、ブラッシングの時間だけを延ばしてがんばります。その結果、次回受診時にもあまり改善していない結果を突きつけられてやる気を失うのです。久保庭雅恵Masae KUBONIWA大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座予防歯科学准教授・歯科医師天野敦雄Atsuo AMANO大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座予防歯科学教授・歯科医師Illustration:寺田久美令和のう蝕に関する皆さんの常識を、サイエンスベースで覆します! 令和のう蝕病因論(カリオロジー)は、ミュータンス連鎖球菌と砂糖だけじゃ語れないのです。第8回脱・昭和の常識!一人ひとりに合わせた方法でアプローチする「しっかりブラッシングする」は禁句テーラーメイドの生活指導令和のう蝕予防~生活指導の最新情報~う蝕予防を目的とした生活指導を行う際、どんな世代の、どんな口腔内の、どんな行動特性を持つ人にも、「しっかりブラッシングしましょう」「甘いものを食べないようにしましょう」「フッ素入り歯磨き粉を使いましょう」と言うだけになっていませんか?令和の生活指導のキーワードは、「テーラーメイド」「ITの活用」「行動科学」です。本稿では、これらを活用した生活指導について解説します。
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