う蝕と糖質の関係について述べるとき、必ず紹介される研究がVipeholm study22です。1945年から1953年にスウェーデンのVipeholm病院で精神疾患患者436名に対して、あるグループには食事に糖質(砂糖群とパン群)を加え、あるグループには毎日同じ間食(チョコレート群、キャラメル群、トフィー8個群、トフィー24個群)をとらせ、う蝕の発生を観察するという方法で研究が行われました。この研究から砂糖とう蝕の関係性が明らかになりました。「そんなことしていいの?」と思われるかもしれませんが、今ではこうした研究は倫理的に許されなくなっています。 気になる結果ですが、間食に砂糖を含む食品を摂取するとう蝕が発生しやすくなり、特に粘着性の高い食品ほどその傾向が強くなるということが明らかになりました。また、食事時に糖質を加えた場合にはう蝕は増えなかったことも注目ポイントです。おそらく食事時はさまざまな食品をしっかり咀嚼することにより唾液分泌が促されているため、多少糖質を増やしてもあまりう蝕は増えなかったのではないかと考えられます。前述のコラムの、果物と果汁飲料の違いと同じ理由ですね。 なお、この研究の対象者のなかには、もっとも条件の悪い「間食にトフィー24個をとらせた群」でもう蝕の発生しなかった人もいます。あくまでも一般論として間食に砂糖を含む粘着性の食品を摂るのはよくない、ということはできますが、目の前の患者さんにそれを制限する必要があるかは別、ということも心得ておく必要があるでしょう。 Vipeholm studyと同時期にう蝕と糖質の関係性を調べるさまざまな研究が実施されており、間食の回数とう蝕の発生についても調べられています23。結果としては間食の回数が多いほどう蝕が発生するのですが、特に2回と3回とで大きな差がついています。このことから、一般論としては「間食は2回まで」とお伝えするとよいと考えます。ただしここでも間食が0回でもう蝕が発生していますので、個々の患者さんにとってどうかはそれぞれ慎重に考える必要があります。 基本的にう蝕に関して「何歳になれば安全」とは言えないのですが、次に年齢の目安も考えてみます。 IAPD(国際小児歯科学会)とACFF(う窩のない未来への同盟)が共同で発表した宣言では「2歳までは遊離糖を避ける」としています24。CDC(アメリカ疾病対策予防センター)も同様に、2歳未満の子には砂糖の添加を避けるとしています25。また前述のように、アメリカ小児科学会は、果汁ジュースは1歳までは避け、3歳、6歳で区分しています。 以前はいわゆる“感染の窓26”を理由に「3歳までは甘いものを避ける」とされることも多かったと思いますが、現在はう蝕は感染症ではないと捉えることが妥当とされており27、口腔内細菌は食習慣を含む環境変化によって生涯変化しうると考えられています。感染症として扱えば、食具を分ける等、「伝播を防ぐ」行動が優先されがちになりますが、これらはあまり効果的ではないことがすでに明らかになっています28ので、論拠とするのはあまり好ましくないと考えます。 しかし、冒頭(P.49)で述べたように、3歳頃までは、う蝕予防にとって相対的に食習慣の重要性が高まる時期と言えます。53なんでもダメではきゅうくつだ間食における遊離糖を含む口腔内に停滞しやすい食品は危険性が高く、間食の回数は2回までにすべきで、特に3歳までは注意したほうがよい、というFebruary 2023 vol.47これらをまとめると、ことになります。食習慣にかかわるのは、量だけではありません。本章では、糖の摂取量以外の要素を検討します。
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