文12313演者論202図2 予期不安による歯科治療への影響舌を傷つけられないだろうかに戻る息苦しくならないだろうか歯科治療を受ける患者さんは、多かれ少なかれ、緊張や不安を抱きながら治療に臨みます。過去に受けた歯科治療を機に、苦手意識をもつ患者さんもいれば、日頃から不安傾向にあり、待合室で待っている時に診療室から聞こえるタービンの音や薬品の臭いからも恐怖を覚える患者さんもいます。こうした患者さんたちは、やがて定期検診や歯周病予防で通院することにもストレスを感じるようになり、次第に足が遠のいてしまうことが少なくないようです。本稿では、患者さんに生じるさまざまな不安を理解し、不安軽減に向けたコミュニケーション法と、患者さんに安心感をもたらすために院内で取り組む対応法について、心理学の観点からお伝えしたいと思います。55August 2023 vol.47動悸、過呼吸、手汗など。 では、歯科治療はどうでしょうか。歯科治療に不安や恐怖を抱く患者さんも、例外なく同様のプロセスをたどります(図2)。たとえば、う蝕治療を受ける患者さんは、治療中にタービンで歯を形成している感触を通して「(タービンが)舌に触れたらどうなるのだろう」「舌を傷つけられないだろうか」など、さまざまな考え(予期不安)が頭の中でよぎり、恐怖に陥ります。心臓の鼓動は速まり、呼吸は浅くなり、全身に緊張が走り、手にも汗がにじみ出ます。こうした身体的反応は患者さんの不安をさらに増幅させ、もはや予期不安を除去するのが難しく、みずからの気持ちのコントロールをすることが不可能になる結果、パニックを起こすこともあります。 また、狭いところが苦手な患者さんでは、インプラント治療などの外科治療を受ける際、患者さんの顔から上半身にかけてドレープで覆われることで、さまざまな侵入思考(自分が望まないのに浮かんでしまう考え)が始まります。「呼吸がしにくくなってしまわないだろうか」「息苦しくならないだろうか」などの予期不安から、動悸や過呼吸を招く結果、治療に支障をきたすこともあります。 こうした一連の流れは、歯科治療における不安を体験的に学習するため、脳裏に定着しやすいです。次回以降来院するたびに同様のパターンが繰り返されるため、不安は延々と続いていくこととなるのです。Satomi MIZUKI多摩大学大学院(MBA課程)客員教授横浜歯科医療専門学校非常勤講師歯科衛生士・医学博士・心理カウンセラーIllustration:田中麻里子予期不安が生じる身体的反応が表れる(不安増幅)パニックを起こす、治療に支障をきたす来院ごとに同じ予期不安が生じる歯科治療でもさまざまな予期不安が生じる対応法水木さとみ
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