1出血性疾患の患者さん 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血友病A・B、造血器系の悪性腫瘍、肝硬変など2抗血栓療法を受けている患者さん 抗血小板療法、抗凝固療法3人工透析を受けている患者さん 4易出血性となりえる粘膜疾患の患者さんなど 口腔扁平苔癬や天疱瘡などの自己免疫疾患や口腔がんなどで 歯肉、粘膜にびらん、潰瘍形成をしている状態53 当院(横浜総合病院)は救急病院ですので、「血が止まらないので診てください」という患者さんが多く訪れます。その状態は、止血処置が必要のない場合から、ビニール袋や洗面器を顎の下に置いて来院される場合までさまざまです。出血の原因は多様で、手術や処置にともなって起きた血管(動脈、静脈)の破綻による出血の場合や、外科処置後の高血圧(疼痛などでの急激な血圧上昇で血餅が遊離する)による創縁からの出血の場合もあります。また、術後数日経過してから、局所の細菌感染で閉塞していた血餅が溶解して発症する出血もあります。いずれの場合でも、局所的要因に加えて、高血圧症や表1のような全身的因子が背景にあることも多く、有病者の処置時には炎症性肉芽組織の徹底的な除去と術後管理が必要です。 近年の高齢化にともない、さまざまな基礎疾患や既往歴のある患者さんが来院されているのを実感している方も多いと思います。高血圧症や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病も増加傾向にあり、それらに起因した脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓症などの血栓症や、腎不全による腎透析などで血液をサラサラにする(固まりにくくす表1 歯科治療における出血の原因る)お薬を飲んでいる患者さんの処置をする機会も年々増えているように感じます。歯肉縁上歯石の除去や口腔清掃指導(OHI)程度でしたら、出血性の合併症が起こることは少ないと考えます。しかし、冒頭でも述べたとおり、出血性疾患のある患者さんや、抗血栓療法を受けている患者さん、人工透析を受けている患者さん、易出血性となりえる粘膜疾患の患者さんに歯肉縁下歯石の除去や歯周外科、抜歯などの処置を行うと、なかなか止血できないという状況になりえます。 こういった状況を防ぐため、一般の歯科医院から引き続いて対応することの多いわれわれ救急病院の歯科医療従事者の立場から、経験的に多く来院する口腔内に出血を起こしやすい患者さんや状態について解説したうえで、一般の歯科医院で立てるべき対策を検討してみたいと思います。 また、歯科診療で歯科衛生士が易出血性の患者さんに遭遇する機会がもっとも多いのは、やはり歯周基本治療だと思います。易出血性の患者さんに対して、歯周基本治療となる専門的口腔ケアを行う際に配慮すべき点についても、歯科衛生士の視点からお話ししていきます。P.54P.56P.58P.59November 2023 vol.47まずはここから!観血処置の前に確認すべきこと局所的因子全身的因子易出血性の患者さんでは、歯肉縁下歯石の除去でも止血が困難になる場合があります。切開や剥離、抜歯やドリリングなどにともなう血管損傷
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