歯科衛生士 2024年1月号
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熊谷 臨床現場の歯科衛生士においては、病気、主に歯周病を治すという仕事と、その先の健康を管理していくという仕事、この2つが大きなテーマです。治療と予防という大きな2つの世界を司るという意味では、やりがいがある専門職だと思います。歯を削ったり抜いたりする歯科医師の仕事とは違い、患者さんの生活や習慣に踏み込む必要があるわけです。治療の技術に加えて患者さんの背景を把握できる能力も求められます。 でも、患者さんの人生のひとコマを管理していると実際に感じている歯科衛生士は少ないだろうし、そうしなくてはならない仕事だと知っている歯科衛生士も少ないだろうし、そもそも歯科医師も知らないから、一般の人はもっと知らない。これは課題かなと感じます。塩浦 国家資格の専門職であるにもかかわらず、本人たちが本来の役割に気づいてないから、うまく回っていないことが多いように思います。 昔、歯科助手さんに「歯科衛生士さんって、予防の人でしょ?」と言われたことがあります。この「予防の人」という切り口はいいなと思いました。歯周病を治すという現段階だと、まだ「予防の人」ではないですよね。いまの日本は予防への道半ばという感じですから、まずは歯周基本治療をやらなければいけないですが、「予防の人」が実現すれば仕事内容を説明しやすいと思います。国民が小さい頃から良い状態のお口を保ち、これを一緒にずっと見ていくのが歯科衛生士の仕事になればいいなと思います。これが最終ゴールでしょう。奥山 私が歯科衛生士になった頃は、歯科疾患の発症予防や進行を食い止めるという考えはあたりまえではありませんでした。けれど、今では「発症しないようにしましょう、発症しても食い止めましょう」となり、歯周基本治療がとても重要になってきています。歯周基本治療を担うのが本来の歯科衛生士です。しかし、臨床現場を見ていると、歯周基本治療によって歯周病を治すことがあたりまえになっていないために、歯科衛生士の仕事の価値が形に現れていないように思います。「国民の健康を守る」という誇りをもった歯科衛生士はまだ少ないと感じます。小林 私はこの何年か歯科衛生士専門学校で歯科衛生概論を担当しています。この教科には「歯科衛生士とは何か」とか、「なぜ勉強していかなければいけないのか」とか、「歯科衛生士という仕事はどういうものなのか」が全部入っています。また、歯科衛生士法第2条第1項*1で歯科衛生士の仕事の目的が「予防する」ということであると明言されています。でも、これは入学して最初の講義になるので、学年が進んで実習が始まる頃には習った内容を忘れちゃうんです。さらに悪いことに、現場で働く歯科衛生士も忘れていたり、歯科医師も歯科衛生士は何の仕事をするのか理解せずに雇用したりしているので、いつまで経っても「予防の人」になれないのではないかなと思います。53*1:歯科衛生士法第2条第1項この法律において「歯科衛生士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科医師(歯科医業をなすことのできる医師を含む。以下同じ。)の指導の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。①歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によつて除去すること。②歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること。Yasushi KumagaiJanuary 2024 vol.48熊谷靖司熊谷歯科医院[東京都]・歯科医師1994年鶴見大学歯学部を卒業。1996年東京医科歯科大学歯学部歯科補綴学第一講座入学(医局員)、1997年~2000年9月まで若林歯科医院(東京都)に勤務した後、2000年10月に熊谷歯科医院を開業。【主な所属・役職】日本歯周病学会認定医歯周基本治療研究会(理事)日本臨床歯周病学会はじめに ──歯科衛生士本来の仕事とは

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