歯科衛生士 2024年2月号
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February 2024 vol.48 食事によって発酵性糖質が口に入ると、それをプラーク中の酸産生菌が食べ、酸を作って外に出します。この酸によりプラークのpHが徐々に酸性に変わり、プラークに触れている歯の表面のカルシウムが溶けだし脱灰が起こります(図1)。ただし、食事が終わるとプラークに染み込んだ唾液が緩衝作用を発揮することでプラークのpHは中性へと戻ります。そして、中性になると、脱灰した歯の表面に唾液やプラークからカルシウムが補充され、歯質は再石灰化し、修復されます(図2)。Column1 20世紀初めに白濁模様や褐色の色素沈着がみられる歯(当時は斑状歯と呼ばれた。現在では歯のフッ素症と呼ばれるもの)が米国で発見されました。そして、この歯の原因調査から、天然の飲料水に含まれるフッ化物濃度が高いと、歯のフッ素症が起こるものの、こういった歯ではう蝕の発症がとても少ないことがわかりました2。 そこで、歯のフッ素症にはならず、う蝕の発症が効果的に抑えられる濃度として「飲料水中フッ化物濃度=約1ppm」と設定されたことがフッ化物応用の始まりです。 その後、水道水フッ化物濃度調整(Water Fluoridation:水道水フロリデーション)が、1945年に米国・カナダの4都市で開始されました。そして、水道水フロリデーションの有効性と安全性が確認される過程で、歯に直接フッ化物を作用させる局所応用の研究も始まり、有効性が確認されました。現在では、いろいろなフッ化物応用が世界120ヵ国で利用されています(P.31参照)。 半世紀以上にわたるフッ化物応用の有効性と安全性に関する研究結果に基づいて、WHO(世界保健機関)とFDI(国際歯科連盟)は世界各国にフッ化物応用のさらなる実施を勧告しています3。 しかし、古く固いプラークや、多量のプラークの場合は、唾液がプラークの内部まで浸透できないため、中性に戻れないことから、再石灰化が進みません。 つまり、食事の後にエナメル質の再石灰化と脱灰のバランスが崩れたまま元に戻らず、唾液やプラークのpHが臨界pH(エナメル質の場合は5.5)以下になるために、脱灰する量が再石灰化する量を上回り、う蝕となるのです(図3)。図1 脱灰図2 再石灰化図3 う蝕29フッ化物応用の歴史う蝕が起こる理由そもそもなんでう蝕が起こるのか、患者さんに説明できるでしょうか?

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