歯科衛生士 2024年4月号
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2023年下半期1April 2024 vol.4867「顎が外れるのが怖いから口を大きく開けられない」という開口障害の患者さんがいます。このような場合でもトレーニングを行って良いのでしょうか? 外れた場合に自分で戻すことが困難な場合は積極的にお勧めしないほうがよいのでしょうか。また、関節円板障害や変形性顎関節症の方でもトレーニングにより改善は見込めるのでしょうか? 質問のような患者さんの訴えは、よくあります。ここでは次の2つの病態が考えられます。一つは開口時に顎関節内部の顎関節円板というクッションが引っかかって開けづらく、戻せなくなる状態を「顎が外れる」と勘違いしているケースです。このようなケースは顎関節症の顎関節円板障害の状態(7月号P.35参照)ですので、顎関節や咀嚼筋に痛みがあるケースでは積極的にリハビリトレーニングを行っても構いません。また、変形性顎関節症であっても同様です。リハビリトレーニングにより変形が進行して形態が壊れることはなく、適正な下顎の開閉運動ができるようになると顎関節の変形はリモデリングにより形態が順応していきます。関節隆起[東京都]院長・歯科医師〈引用文献〉1.日本顎関節学会.顎関節脱臼のQ&A(医療関係者へ).https://kokuhoken.net/jstmj/medical/file/faq/faq_dislocation_medical.pdf(2024年2月9日アクセス) もう一つは顎関節症ではなく、顎関節脱臼という別の病気です(図2)。顎関節脱臼は「下顎頭が下顎窩から前方などに転位し、顎運動障害が生じた状態」をいい、自力で閉口するのが困難、またはできない状態をいいます。あくびなどの大開口、歯科治療の長時間開口などに起因して起きた急性の顎関節脱臼では徒手整復が行われ、予後は比較的良好です。 一方、脱臼を繰り返して習慣化した場合は習慣性脱臼とよばれ、このようなケースでは顎が外れるのが怖くてみずから開口制限をしているため、開口障害を生じているような印象を受けます。脱臼しても自分で整復できるケースではリハビリトレーニングを行うことで閉口時の引っかかりが減り、開閉口がスムーズになる場合もあります。 一方、整復できないケースでは整復の仕方を教えて実践してもらいますが、自己整復が困難な時は、関節腔内自己血注入療法や外科治療などが必要となる場合もあります。この場合、高次医療機関への紹介を検討します。顎関節脱臼については日本顎関節学会HP1に詳細が記されていますので、参考にしてください。両側性顎関節前方脱臼の3D-CT画像。両側の下顎頭は関節隆起より前方に位置している。(東京女子医科大学歯科口腔外科 岡本俊宏先生提供、文献1より許可を得て掲載)図2 顎関節脱臼のCT像下顎頭Q2みずから整復できる場合は行っても構いませんが、整復が困難なケースでは高次医療機関への紹介となることもあるため、病態を確認しましょう。佐藤文明佐藤歯科医院 今戸クリニックA2「口を大きく開けられない」という患者さんにリハビリトレーニングを行ってもよいものでしょうか? こと、全部答えます。

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