3 抜歯症例の加強固定 矯正歯科治療でコンベックスタイプの側貌を大きく変化させようとする場合、治療方針として小臼歯抜歯が選択される。なかには、臼歯部をほとんど近心移動させないような最大固定を計画することも少なくない。このような場合、OASと臼歯部を固定して間接的固定源にするか、あるいはOASから前歯部を牽引して直接的固定源にするメカニクスが選択される(図3抜歯症例の加強固定2歯を遠心移動させるための固定源写真では、OASを直接的固定源にしてアーチワイヤーから上顎前歯部を牽引している。1歯を垂直方向へ圧下させるための固定源写真では、OASを直接的固定源にしてアーチワイヤーから上顎前歯部を牽引している。日本版オリジナルページ移動が選択されることが多い4。ただし、顎間ゴムを使用した遠心移動は、固定源となる対顎が反作用として近心移動してしまうため、注意する必要がある。これに対し、歯根の大きい臼歯部を遠心移動させるための加強固定としてOASの併用は有効である。 OASの設置位置については、最後臼歯遠心歯肉への植立が口腔内の構造的に難しいため、直接臼歯部を遠心移動させることはできない。したがって、間接的に臼歯部を遠心移動させるメカニクスを選択する。これは、モーメントによる臼歯部圧下の反作用の発生を招くため、顎間ゴムを併用した牽引方向の細やかなコントロールが必要となる(図1b)。図1OASの主な3つの使用目的(マルチブラケット矯正治療での使用例)。abc アライナー矯正治療でOASの併用を検討する場合、著者は前述の3つの使用目的のうち、反作用が最も少ない1の「歯を垂直方向に圧下させるための固定源」に使用することを推奨している。なぜなら、OASから歯を歯軸方向に直接牽引でき、フォースシステムがわかりやすいためである。以下、OASによる圧下の必要性について臼歯部と前歯部に分けて考えていこう。1c)。マルチブラケット矯正治療では、剛性の強いアーチワイヤーで歯列を一塊化することができるため反作用が少なく、抜歯症例でOASを用いた前歯部の牽引がよく行われる。一方アライナー矯正治療では、アライナー自体にあそびやたわみがあるため、抜歯スペースの閉鎖で臼歯部にボーイングエフェクトが発生し、OASのメリットを生かすことが難しい。各矯正装置とOASによる臼歯部の圧下:マルチブラケット矯正治療では、前歯部の開咬をともなう骨格性Ⅱ級症例において下顎を反時計方向に回転させること写真では、OASを直接的固定源にしてアーチワイヤーのフックから上顎前歯部を後方へ牽引している。90Journal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2023 vol.3 issue 1圧下における各矯正装置とOASの相性
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