長尾龍典 矯正専門医ではないわれわれ一般歯科医(GP)が成人矯正治療を行う場合、修復物や補綴装置を有する口腔内を対象にすることが多い。それは、成人であるがゆえに咬合を含め矯正歯科での対応範囲以外の疾患を有していたり、患者と補綴修復治療の相談を行ううち、患者の希望などから矯正歯科治療とのコンビネーション治療へ移行したりすることが多いためである。 前号ではこうした患者に対し、患者の拒否反応が比較的少なく、積極的な治療への協力を促しやすいInvisalign Goを用いてアライナー矯正治療と補綴修復治療を融合させ、長期的に安定するフルマウスリコントラクションが可能であることについて概説した。今回は、実際の臨床例を交えてより具体的に話を進めていきたい。 長尾龍典 NAGAO Tatsunori, D.D.S. ながお歯科クリニック 〒606-8274 京都市左京区北白川大堂町5 連絡先 E-Mail: info@nagao-dental.comJournal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2024 vol.4 issue 1キーワード 矯正歯科治療と補綴修復治療の融合、GPによる矯正歯科治療、成人矯正治療、アライナー矯正治療、咬合治療、生理的顆頭安定位75長尾龍典修復物の多い口腔内におけるアライナー矯正治療の利点と欠点 修復物や補綴装置が多い口腔内は、歯冠形態を変えることができる歯(インプラントや大きい範囲の歯冠治療が行われた歯など)を矯正歯科治療に活用できるのが利点といえる。これによって歯の移動距離を最小限にできることもあり、治療期間の短縮のみならず治療による咬合再構成を同時に行うことができる。ただし、残せる歯・残せない歯の鑑別診断が必要かつ重要であるため、臨床の経験値が影響してしまう。 逆に、修復歯の二次う蝕や感染根管がある場合、その歯を残すための歯内療法や歯冠延長術によるフェルールの確保といった矯正前治療の期間が延長してしまう。また抜歯が必要な場合、残存歯を増やすために便宜抜歯の部位を変更するか、便宜抜歯とインプラントを併用するかで歯の移動距離が変化するため、患者がどこまで治療介入を許してくれるかによって矯正前治療が長期化する可能性もある。そのため患者のモチベーションを保つこと、GPの目線でフルマウスリコンストラクションの手順(前号75ページ図4参照)で治療計画を立案することが重要となる(次ページ表1)。日本版オリジナルページメソッドプレゼンテーション&症例報告緒言修復治療の前処置としてのアライナー矯正治療(後編)
元のページ ../index.html#2