村上久夫 Hisao Murakami, D.D.S. 村上矯正歯科 〒852-8135 長崎県長崎市千歳町2-18 連絡先 E-Mail: murakami@kyousei.nameJournal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2024 vol.4 issue 1 近年、矯正歯科治療を希望する成人患者が増加しており、審美的で快適な矯正装置を望む声が高まっている1。アライナー矯正治療は、矯正歯科の分野で急速に成長している分野である2。われわれは、アライナー矯正治療が複雑な不正咬合にも有効と考えて治療を行っているが、アライナー(Invisalign)を用いた不正咬合に対する治療の予測実現性は50%であることも報告されている3。この数値に対し、50%移動可能なのか、50%移動不可能なのかと考えることにより、臨床医はアライナー矯正治療に対して肯定も否定もするであろう。経営学者のピーター・ドラッガーは、「『コップに半分入っている』と『コップが半分空である』とは、量的には同じである。だが、意味はまったく違う。『半分入っている』から『半分空である』に認識を変えるとき、大きなイノベーションの機会が生まれる」と述べている4。 アライナー矯正治療を成功させるためには、固定式矯正治療の知識と経験のみならず、アライナー矯正治療独特の知見をもって診断、治療計画作成、治療中の経過観察を行い、予測実現性が不足している50%を補うためのイノベーションを考え続けることが必要となる。今回は連載第1回として、叢生の改善のためにアライナー矯正治療を行った症例を考察していく。115第1回日本版オリジナルページ [連載] Force driven aligner orthodontics 適切なアライナー矯正治療のノウハウを身につける村上久夫 [長崎県・村上矯正歯科 / 長崎大学歯学部臨床准教授]連載にあたって アライナー矯正治療は、審美的な問題から固定式装置による治療を望まない患者において、選択される代替治療法となっている。しかしながら、日本ではアライナー矯正治療の系統だった教育がなされていない状況にあり、知識不足により不十分な治療結果となった症例も見受けられる。著者は昨年、長崎大学歯学部歯科矯正学分野においてアライナー矯正治療について25時間の講義と実習を行った。本連載ではこの内容をもとに最新の知見を加えながら、症例とともにアライナー矯正治療を解説していきたいと思う。なお、著者が用いているのはInvisalignシステム(インビザライン・ジャパン社)であり、本連載では同システムによる治療について述べる(なお利益相反として、著者は同社からファカルティとしての講演料を受領している旨述べておく)。同システムによる矯正歯科治療は、その独自のフォースシステムによって簡単な症例のみならず複雑な症例まで治療可能であると考える。適切な治療手順を理解し、臨床応用することが治療の成功につながる。読者の先生方のアライナー矯正治療臨床の一助となればと思う。はじめに叢生に対するアライナー矯正治療
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