斎藤秀也 永久歯の先天性欠損、これはわれわれ矯正歯科医を非常に悩ませる問題である。文献にもよるが、第三大臼歯を除く永久歯の先天性欠損がある者の割合はおよそ10%ともいわれる1。歯種別では、下顎第二小臼歯に最も多く認められ、次いで下顎側切歯、上顎第二小臼歯、上顎側切歯の順に多い。特に第二小臼歯の先天性欠損の場合、晩期残存している第二乳臼歯の歯冠幅径が大きいため、矯正歯科治療を著しく困難にする原因となる。第二小臼歯の先天性欠損および第二乳臼歯の晩期残存における治療方法は、大きく分類すると以下の2つとなる。斎藤秀也斎藤秀也 SAITO Shuya, D.D.S.さいとう歯科 〒063-0052 北海道札幌市西区宮の沢2条2丁目4-7 連絡先 E-Mail: shu-shu0720@outlook.jpJournal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2024 vol.4 issue 3キーワード 永久歯先天性欠損、抜歯症例、臼歯の近心移動、臼歯の遠心移動、加速矯正装置 便宜抜歯を行う場合、晩期残存歯である第二乳臼歯の歯冠幅径が大きいため、抜歯スペースの閉鎖は難度が著しく高くなる。マルチブラケット装置かアライナー型矯正装置かにかかわらず、一般的に矯正歯科治療では抜歯する歯の歯冠幅径が大きければ大きいほど抜歯スペースが大きくなり、それにともなって必要な歯の移動量も増加し、治療としては困難になるからである。特に、臼歯の近心移動量が大きくなる症例は治療を困難にさせる。アライナー型矯正装置は従来のマルチブラケット装置に比べて歯体移動が困難であることが、以前より述べられている2。歯体移動が不可能と考えたり、臼歯の近心移動量は1~2mmが限界と考えたりする歯科医師も少なくないであろう。だが筆者は、適切な診断と治療計画作成を行うことによって、アライナー型矯正装置でもマルチブラケット装置と同等以上の治療を行うことができると、本症例を通して理解することができた。 本報では、下顎両側第二小臼歯が先天性欠損し、下顎第二乳臼歯が晩期残存している患者に対し、下顎第二乳臼歯を抜歯後、アライナー型矯正装置を用いて下顎第一・第二大臼歯を近心移動し、抜歯スペース閉鎖を行った症例について報告する。①将来の欠損補綴を考慮して第二乳臼歯の晩期残存歯は抜歯せず、IPR等で歯冠幅径を調整し治療を行う②便宜抜歯を行って抜歯スペースを閉鎖する67日本版オリジナルページ症例報告緒言下顎両側第二乳臼歯を抜歯して第一・第二大臼歯を近心移動した一症例
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