村上久夫 Hisao Murakami, D.D.S.村上矯正歯科 〒852-8135 長崎県長崎市千歳町2-18 連絡先 E-Mail: murakami@kyousei.name 前号と前々号では、Ⅱ級不正咬合に対するアライナー矯正治療(筆者はInvisalignシステムを使用)について解説した。今回も2回に分けて、Ⅲ級不正咬合症例に対するアライナー矯正治療について解説する。アライナーによるⅢ級不正咬合治療は、ほぼⅡ級不正咬合治療の反対方向へ歯を移動する治療となる。ただしⅡ級不正咬合に対するMandibular Advancement(MA:下顎前方誘導機能)のような、Ⅲ級不正咬合における下顎を後方へ、あるいは上顎を前方へ誘導する付加機能はInvisalignシステムに備えられていない。臼歯部の遠心移動をともなうⅢ級不正咬合のアライナー矯正治療は効果的で、臼歯部を約2~3mm遠心移動させ、臼歯および犬歯関係をⅠ級に改善することができる1-3。Wuらによると、下顎第二大臼歯と第一大臼歯の歯冠と歯根の遠心移動の有効率は74%(下顎第二大臼歯歯冠)、49%(下顎第二大臼歯歯根)、71%(下顎第一大臼歯歯冠)、47%(下顎第一大臼歯歯根)であり、Ⅱ級不正咬合治療と同様の傾斜をともなっているが、高い予測実現性が示されている4。 そこで本稿では、アライナー矯正治療がⅢ級不正咬合のどのような症例に適応され、どのように行われ、かつ治療結果を出すためには、どのように治療を行うべきなのかについて、症例とともに考えていきたい。Ⅲ級ゴム用プレシジョンカット 左:フック 右:ボタンカット上顎切歯を唇側傾斜させるルートコントロール用パワーリッジ最適アタッチメント図1 Ⅲ級不正咬合に対するフォースシステムの例。Journal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2024 vol.4 issue 4 Ⅲ級不正咬合に対するアライナー矯正治療のためのフォースシステムとしては、加強固定を目的として用いるⅢ級ゴムのためのプレシジョンカット、上顎切歯を唇側傾斜させるためのパワーリッジ、犬歯と小臼歯に対するルートコントロール用アタッチメントが考えられる(図1)。またフォースシステムとは異なるが、下顎前歯部舌側に反対咬合を改善する目的で、偽のバイトランプを設置することがある(図2)。100Ⅲ級不正咬合に対して使えるフォースシステム第4回日本版オリジナルページ[連載]Force driven aligner orthodontics適切なアライナー矯正治療のノウハウを身につける村上久夫[長崎県・村上矯正歯科 / 長崎大学歯学部臨床准教授]Ⅲ級不正咬合に対するアライナー矯正治療[1]
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