別冊 臨床家のための矯正YEAR BOOK'12
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38BENEFIT FROM ORTHO矯正歯科治療がもたらすもの人の一生から考える矯正歯科治療の意義槇 宏太郎Significance of Orthodontic Treatment Considered from Life TimeKoutaro Makiキーワード:治療意義,存在理由,生涯変化昭和大学歯学部 歯科矯正学教室連絡先:〒145‐8515 東京都大田区北千束2‐1‐1はじめに 解答があまりにも当然と思われる疑問ほど,当事者が,その意味の深さに気づいていない場合も多い. “なぜ歯並びを治すのか?”“なぜ治さなければいけないのか?” う蝕や歯周疾患を防ぎ,機能の改善と口元の美しさが得られるから…. 多くの教科書には,そのように書かれている. しかし,ほんとうにそれだけなのだろうか. これらの解答の根拠とされた文献の旧さには驚かされるし,実は科学的なエビデンスが高いとは思えないものも数多く含まれている. 根源を問う疑問に対して,われわれはより科学的な証左を国民に提示しなければならない責任がある.そして,明確な解答を見つけることは,われわれの精神的な基盤にもかかわる. 矯正歯科治療における技術や知識は,他にあまり類を見ない,高度で洗練されたものであるとの自負がある.そして,治療後の患者の笑顔や言葉は医療従事者としての喜びを与えてくれるのも事実である. しかし,医療の検証には必ず第三者的な視点の介入も必要である. また,筆者自身としては,卒直後から矯正学を学び続けた者としての欠点も自覚せざるを得ない.それは,矯正専門医という職業が,患者の人生の中のごく限られた時期しか見ていない点であり,かつ,矯正歯科治療を希望した患者のみでしかその顛末を語れない点である(図1). つまり,矯正歯科治療を受けない場合,その個体はどのような生活を送ったのか,生涯にわたってどれほどの不具合を生じたのか,われわれ矯正専門医は,その答えをあまり見る機会がないまま,治療を勧告しているのである.矯正専門医におけるパラドクスであろうか. 一方,家庭医として,矯正歯科治療も一般歯科治療もされる先生がたは,さまざまな症例の経過をご覧になっているだろうし,地域に密着していればこそ,何世代にも及ぶ知見も得られていることであろう.しかし,その場合でも,症例数に限りがあるという問題に直面する. 初診相談時に,母親から「この子のデコボコな歯並びを治療しないと将来どうなるのですか? 私も[機能・形態から考える]Department of Orhodontics, Showa University Dental Schooladdress:2-1-1, Kitasenzoku, Ohta-ku, Tokyo 145-8515
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