有病高齢者歯科治療のガイドライン 下
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第18章パーキンソン病患者の歯科治療Ⅱ-2 パーキンソン病患者の歯科治療に際しての注意点1)重症度に基づいた歯科治療 Hoehn and Yahrの重症度分類(表18-3)のstageⅠ~Ⅲまでは通常の歯科治療が可能だが,stageⅣとⅤの患者は機能障害の程度が重篤なため歯科治療のリスクが高いと判断する.このような患者は大学病院か大きな病院に紹介するほうがよい. また,嚥下困難,誤嚥,肺炎の既往,喀痰排出や深呼吸が指示どおり行えるか,唾液,気道分泌が多くないかを問診する.このような症状があれば,歯科治療中に誤嚥が起こりやすいので,口腔内吸引を十分に行わなければならないし,抗菌薬,鎮痛薬の経口投与の際には薬がうまく飲み込めないかもしれない.2)Wearing-off現象に対する注意 ドパミン前駆薬であるL-ドパを長期間服用している患者では,L-ドパの薬効時間が短縮し,L-ドパ服用数時間後にL-ドパの効果が消失して,症状が強くなる.これをwearing-off 現象という.L-ドパが効いているときをon,効かなくなったときをoff と表現して,血中濃度の変動により一日のうちでonとoff が混在して,症状が良くなったり悪くなったりする.ちなみにwear off とは薬の効果などが徐々に消えていくことを意味する. このような患者は,歯科治療の時間帯によっては治療中にoff になる可能性があるので,問診時にonの時間帯を確認して,歯科治療をonの時間帯に合わせて予約をとるようにする.3)固縮に対する注意 固縮があるので,血圧計のマンシェットを上腕に巻くときに,腕を伸ばそうとしても肘関節が硬くて伸ばしにくい.硬いからといって無理矢理強い力で伸ばそうとしてはいけない.パーキンソン病の一症状であることをよく理解して,あくまでも愛護的にゆっくりと腕を伸ばすようにしなければならない.4)振戦に対する注意 安静時振戦があるので,歯科治療中にデンタルチェアの上で仰臥位になり,安静を保っているときに手が小刻みに震える.パルスオキシメータを指先に装着してもSpO2を正確に表示しないことがある(上巻,第12章 P.270参照).そのような場合は足の指先に装着する.パーキンソン病の振戦は下肢のほうが上肢よりも発生頻度が低いからである.足にも振戦がみられる場合には,密着タイプのプローブを絆創膏でしっかりと固定する.体動ノイズ除去機能付のパルスオキシメータ(マシモ社,Radical-7®など)が販売されている.5)起立性低血圧に対する注意 パーキンソン病患者では起立性低血圧を認めることがある.発病初期にはみられないが,病気の進行にともなって生じることがある.また抗パーキンソン病薬で生じることもある.いずれにしても日常生活で起立性低血圧を認める98

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