有病高齢者歯科治療のガイドライン 下
7/8
第21章統合失調症患者の歯科治療関係が破綻することもある.歯科治療が困難な場合には,精神科主治医に相談したり,大学病院か大きな病院に紹介する必要があるだろう.(1)疎通性の障害(表21-4:N3) 歯科医師への親近感も歯科治療に対する関心もなくコミュニケーションがとれない.歯科医師が話しかけても返事をしない,目をそらす,でまかせな応答をする,意味のないことを話すので,患者の訴えがわからないし,患者の状況が把握できないので歯科治療ができない. このような場合には患者の訴えをよく聞いて,優しい言葉で話しかけて,忍耐強く患者の主張や伝えたいことを十分聞きだすことが重要である(表21-5).(2)不安感と猜疑心(表21-4:G2) 歯科治療に対して極端な不安,神経過敏,過度の心配,憂慮,焦燥感を示す.緊張により振戦や多量の発汗がみられ,落ち着きがなく,猜疑心が強く,用心深く,疑ぐり深い態度をとる.過度の警戒心をもち,他人が自分を傷つけるという妄想にかられるので,歯科医師やスタッフとうち解けることもなく,距離が遠ざかり,意思疎通がますますできなくなる. このような患者に対しては,たとえ必要であっても抜歯などの口腔外科処置は控え,初めは投薬や説明あるいは非侵襲的で簡単な処置にとどめ,時間をかけて,歯科治療に慣れてもらう努力が必要であろう(表21-5).(3)非協力的な態度(表21-4:G8) 自主性に乏しく,無感情で,非協力的な態度を示し,歯科医師の指示に従うことを積極的に拒否する.開口を指示しても従わない.たとえ口を開けても治療中に口を閉じてしまい,なかなか口を開けない.歯科医師は患者の非協力的な態度に苛立ちを感じ,思わず大声を上げ,強い調子で命令してしまう. このような場合も歯科医師はけっして焦らず,わかりやすい説明や指示を何度も繰り返す努力が必要である.歯科治療はなるべく短時間で終わらせ,長時間の歯科処置や開口状態を維持させる治療は可及的に避けるべきである.歯の切削や抜歯時など閉口により危険性が生じる場合には,よく説明してから開口器を使用することも必要である(表21-5).統合失調症の臨床症状と歯科治療対策表21-5歯科治療時の臨床症状歯科治療時の対策疎通性の障害・話しかけても返事をしない・目をそらす,目を合わさない・意味のないことを話す・でまかせな応答をする・患者の訴えをよく聞く・優しい言葉で話しかける・忍耐強く患者の主張を聞く・伝えたいことを十分聞きだす不安感と猜疑心・不安を感じ,過度に心配する・猜疑心が強く,用心深い・疑ぐり深い態度をとる・過度の警戒心を抱く・初診時は投薬や説明にとどめる・非侵襲的で簡単な処置に限定する・口腔外科的処置は控える・時間をかけて治療に慣れてもらう非協力的な態度・自主性に乏しく,無感情である・歯科医師の指示に従わない・積極的に拒否する・口を開けようとしない・わかりやすい言葉で話す・指示や説明を何度も繰り返す・治療時間をできるだけ短くする・説明して開口器を使用する135
元のページ