有病高齢者歯科治療のガイドライン 下
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第23章血友病患者の歯科治療2)伝達麻酔に対する注意 軽症の血友病患者では,歯肉頬移行部や歯間乳頭部への浸潤麻酔は可能である.しかし,下顎孔伝達麻酔は避けたほうがよい.血友病患者では,たとえ軽症でも深部血管のわずかな損傷で血腫が形成される可能性がある.咽頭部,口腔底の血腫は増大すれば気道閉塞をきたす危険性がある. どうしても下顎孔伝達麻酔の必要があるときは,大学病院か大きな病院に紹介したほうがよい.前もって凝固因子レベルを血友病Aで50%,血友病Bで40%以上に上昇させておく必要があるからである.3)口腔内出血に対する注意 口腔内出血でもっとも頻度が高いのは歯肉炎や歯槽膿漏による歯肉からの出血である.歯周疾患が進行すれば,機械的刺激がなくてもびまん性に出血するようになり,止血が難しくなる.歯石除去でも出血することがあるので,歯周炎が進行する前に,歯肉炎の初期段階で適切なブラッシング指導を行い,プラークや歯石を除去し,口腔衛生状態を維持するように定期的に管理しなければならない.歯科医師と内科主治医との密接な協力体制の構築が必要であろう. もしも歯科処置中に急性の口腔内出血があり,局所止血処置でも止血しない場合には,血液凝固因子製剤の補充療法とトラネキサム酸(トランサミン®)の投与を行う.補充療法は目標ピーク因子レベルを20~40%として1回投与する.舌や口唇の裂傷による出血では目標レベルを40~60%として12~24時間ごとに3~7日間投与する.またトラネキサム酸は1回15~25mg/kgを1日2~3回経口投与,あるいは1回10mg/kgを1日2~3回静注する.4)抜歯後出血に対する注意(1)術前補充療法 抜歯を含む口腔外科手術時には凝固因子の補充療法を行って,第Ⅷ因子活性あるいは第Ⅸ因子活性を止血レベルに維持しておく必要がある.①抜歯や切開をともなわない歯科治療(窩洞形成,レジン充填など)では補充療法は不要である.必要ならトラネキサム酸(トランサミン®)1回15~25mg/kgを1日2~3回経口投与または1回10mg/kgを1日2~3回静注する.重症度と歯科治療内容表23-4重症度歯科治療内容注意事項備 考軽 症通常の歯科治療可 能スケーリング(歯肉縁下)可 能トランサミン®投与通常の抜歯凝固因子活性≧40%なら可能トランサミン®投与難抜歯,多数歯抜去大学病院,大きな病院へ紹介中等症保存修復処置,補綴処置可 能局所麻酔が必要な観血的処置大学病院,大きな病院へ紹介重 症すべての歯科治療大学病院,大きな病院へ紹介169
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