知る・診る・対応する 酸蝕症
3/6

053酸蝕症を診断するにはCHAPTER5 一般歯科臨床では,微小なtooth wearを,健全部または加齢的に避けられない事象として見逃している可能性がある.erosive tooth wearは,一般的に患者年齢に大きく依存するが,その初期段階を正確に診断することが重要である.現在,臨床における酸蝕レベルを,特異的かつ定量的に評価可能な診断(補助)機器は存在しない.このため,実際の酸蝕症を診断する上では,臨床所見(視診)からその特徴をとらえることがもっとも重要となる. 前述のerosive tooth wearに関する最新の書籍では,酸蝕症の初期症状に関する臨床所見(smooth silky-glazed sometimes dull appearance,intact enamel along the gingival margin and change in colour,cupping and grooving on occlusal surfaces)が繰り返し記載されている(和訳は図28参照).また,同所見から酸蝕症の初期症状を見極め,その後の過程をモニタリングできる歯科関係者の養成が必要であると謳われている.う蝕や咬耗など他の疾患との識別が困難な所見も記載されているが,歯頸部に健全歯質が一層残る臨床所見(図28矢印部)は,酸蝕症特有の所見と考えられる.日々の臨床において,同様な臨床所見が複数歯に及び散見される場合には,かならず酸蝕症を疑い,患者の日常生活に関しても目を向ける必要がある.繰り返すが,歯頸部に健全歯質が残存する臨床像(図28)は酸蝕症特有の所見としてぜひとも記憶していただきたい. 初期エナメル質段階における酸蝕の進行プロセスの診断は困難であるが,その後に生じる象牙質露出有無の視診評価はさらに難しい.実際,前述の筆者らによるerosive tooth wear疫学調査前に実施した全評価者によるキャリブレーション作業では,象牙質露出有無に関するすり合わせ作業にもっとも時間を要した.このエナメル段階から象牙質段階への移行時期を臨床上的確に捉えるのは非常に難しく,tooth wear専門家であっても,ときとしてその困難さに直面する.タイムリーで適切な評価を下すためには,エナメル質・象牙質ともに,初期段階における臨床像を正確に診断できるスキルを養う必要がある.図28 酸蝕症の初期症状に関する臨床所見.平滑でつやがあり,ときどきぼんやりとくもった様相を呈するsmooth silky-glazed sometimes dull appearance歯肉側マージンに健全エナメル質, ならびに色調変化を認めるintact enamel along the gingival margin and change in colour咬合面における色調変化,カップ状形態と溝の形成cupping and grooving on occlusal surfaces5-2 酸蝕症の初期(エナメル質)段階に注意

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る