知る・診る・対応する 酸蝕症
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075CHAPTER7酸蝕症の臨床対応❶ 生活習慣の見直しと改善 歯が酸に曝露すると,最表層ならびに表層近傍のエナメル質が脱灰し軟化する.一度,エナメル質が軟化すると,それらは歯みがきによる摩耗の影響を受けやすい状態と1遅延歯みがきをめぐる海外の研究報告 これまで,酸蝕後すぐに歯をみがかず,ある程度の時間をおいてからみがく遅延歯みがきの効果が検証されてきた.この遅延歯みがきのコンセプトは,酸曝露後のエナメル質が唾液に触れることで再石灰化(再硬化)するための時間の猶予を期待したものである.しかしながら,酸蝕と摩耗の相乗作用は,エナメル質と象牙質で異なるインパクトを示し,遅延歯みがきの効果は未だなお討議が重ねられている段階である. エナメル質を対象とした臨床研究は,エナメル質自身が硬く,実験的に歯ブラシ摩耗の差が生じにくく,また微細な差の測定評価が困難であることからあまり実施されていない.Attinらによるin vitro研究62)(2000)では,軟化したエナメル質が歯みがきに抵抗するのに必要な再石灰化時間を検証するため,牛歯を用い1分間のソフトドリンクへの曝露ならびに人工唾液への異なる浸漬時間を繰り返した.その結果,Attinらは,長い再石灰化時間が,歯ブラシ摩耗に対してより高い抵抗性を示すことを見出した.この研究は,人工唾液を用いて実施されているが,人工唾液は歯の表面へのミネラル沈着を阻害する唾液タンパク質を含まないため,ヒト唾液よりも高いミネラル沈着性を示す傾向にある. ヒト唾液の働きは,in situ研究結果に見受けられる.Jaeggi & Lussi(1999)は,7名の被験者協力のもと,クエ図50 酸蝕症患者の歯ブラシ摩耗2症例.図50aは72歳女性,りんご酢を愛飲する外因性症例.りんご酢を飲んでからすぐに硬めの歯ブラシで歯みがきする習慣がある.上顎前歯部唇面に不規則な歯ブラシ摩耗痕が無数に確認される.図50bは50歳女性,内因性(GERD)ならびに外因性(柑橘系果実)の混合症例.グレープフルーツやオレンジを毎朝食べ,すぐに歯みがきをする習慣がある.同様に無数の歯ブラシ摩耗痕を認める.両症例ともに酸蝕症の影響が及びやすく,唾液の保護作用を得にくい上顎前歯部で確認されている.なり,その後実質欠損へとつながることが懸念される(図50).このため,長年歯みがきは,erosive tooth wearに関連する因子として認識されてきた2).50a50b7-2 酸蝕症患者への歯みがき指導をどうするか

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