1 緒言 われわれ歯科医師は,「炎症」と「感染」を明確に分類し,診断し,それを患者に説明,教育する必要がある(図1).「炎症」は組織の損傷などの異常が生体に生じた際,損傷に対する免疫応答により生じる(図2).また「感染」は病原微生物が体内に侵入した時に発生する(図3).すなわち,「炎症」とは「感染」などの外部刺激に対する体の免疫応答(図4)であり,歯髄炎も根尖性歯周炎も末尾に「炎」とある,つまり炎症である.X線写真の透過像を見て,「感染」があるという表現は間違った解釈である.根尖性歯周炎はあくまで「感染」が引き起こした「炎症」であり,「感染:病因」を除去することで治癒する(図5). Sundqvistら2は,根尖性歯周炎の発生条件を「(病原微生物の数×病原性因子)÷宿主の免疫」と述べている(図6).根管治療でコントロール可能なのは,病原微生物の数で,これをいかに減らすかというのが根管治療の目標であり,これにより根尖性歯周炎の予防と治癒が実現できる.Husseinら3の論文でも同様に,根尖性歯周炎の病因論をベースに,洗浄剤や貼薬の効果を論述している. 前述したように,根尖性歯周炎は誤解されがちだが,それ自体は感染ではなく感染が原因で生じる体の免疫応答である.骨吸収が起きるのも,われわれの体内にある破骨細胞が炎症反応により活性化し,通常の骨リモデリングのバランスが崩れている状態である.外傷や矯正治療などによっても炎症は惹起され,骨吸収が起きること 2 歯内療法での活用①:Gentle Wave System Gentle Wave System(以下,GWS)は,2016年に米国で歯内療法に導入された根管洗浄専用の機器である(図7).メーカーの公表では,すでに100万本の歯に対しての治療報告がされており,今後もさらなる発展が期待される.GWSはシリンジ洗浄では不可能な50ml/minという高流量で次亜塩素酸ナトリウム水溶液とEDTAを根管内で灌流させることが可能である.また,単一周波数の音波洗浄と違い広範な周波数の音波を根管系全体に行き渡らせがあるが,軽度の可逆性炎症である場合がほとんどであり,自然治癒する.しかしながら,多くの根尖性歯周炎のように,細菌感染が絡んでくると,原因である感染を除去しない限りは治癒しない.同論文に以下のような記載がある. The host immune response plays a central role in the pathophysiology of AP and post-treatment healing;yet, most available therapeutic strategies aim to control only the root canal biofilm with limited success at the apical third. 根管治療におけるクリティカルゾーンは根尖部1/3であり,同部をいかに確実かつ非侵襲的に清掃,除菌するかが論点になってきている.レーザーやGentlewaveの歯内療法での活用はその代表例であり,それらに関して以下に解説したい.図1a〜d X線透過像.根管の出口は多くの場合,根尖孔であるが,本症例では側枝が存在している.その出口を中心に根尖透過像が同心円状様に拡大しているのが読み取れる.米国・テキサス州開業 Sigma Dental Specialists24Part 1-1嘉村康彦特別講演1よりabcd病因論から読み解く歯内療法の潮流New trend in Endodontics demystified with etiology
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