1 緒言 以前,歯内療法が行われた割合の調査(2005年,東京都)において,覆髄,生切が約17%,抜髄が約30%,再根管治療の割合は約53%であったと報告された.さらに,厚生労働省の2017年度患者調査によれば,全体の約18%の患者が根管治療(再根管治療を除く)を受けている.この他にもさまざまな報告があるが,日本において,抜髄,根管治療後の再根管治療の割合は高く,治療した歯の再治療が必要となれば,患者にとってそれ自体がストレスになり,歯科医師への不信感となる.われわれ日本歯内療法学会の会員は,根管治療が必要な患歯に対して真摯に取り組んでいるが,一般臨床では,欧米などと比べ保険制度の違いからさまざまな問題点が考えられる. 今回の教育講演で行った概要を以下に示す. 2 無菌的処置 根管治療を行う際,無菌的治療を行わなければならないことは周知の事実である.そのため,無菌的治療の際には,ラバーダム防湿を施した抜髄・根管治療が必要なことは明白である.ラバーダム防湿の目的を図1に示す.しかし,さまざまな調査でも明らかなように,実際にラバーダム防湿を行っている歯科医師は,歯内療法専門医と比べてはるかに少なく,しかも日本歯内療法学会会員においてもすべてではない. 2018年に行われた日本顕微鏡歯科学会の会員への調査3 では,「根管治療においてすべての症例でラバーダム防湿を行っている」は57%,「症例によって行う」が36%であり,使用頻度は高かった.また,日本歯内療法学会の2021年に報告4された結果からは,会員で「必ずする」と回答したのは51.5%,「一般的にする」と回答したのは22.5%であり,専門医では「必ずする」と回答したのは60.0%,「一般的にする」と回答したのは21.1%であった.一般開業医の「必ずする」と回答したのは14.1%,「一般的にする」と回答したのは14.5%であり,日本歯内療法学会会員と日本顕微鏡歯科学会会員の根管治療にラバーダム防湿を行う意識が高いことが分かった. 一般開業医では保険治療を行ううえでの診療に費やす時間を考えると,根管治療すべてにラバーダム防湿を行うことは難しいと考えている臨床医が多いことが推測される.また,一般開業医における隔壁を行ってラバーダム防湿を行っている割合も,「必ずする」と回答したのは34.8%,「一般的にする」と回答したのは22.5%であり,日本歯内療法学会会員においては,「必ずする」と回答したのは65.3%,「一般的にする」と回答したのは19.2%であり,専門医においては,「必ずする」と回答したのは61.1%,「一般的にする」と回答したのは23.2%であり,隔壁を行ってラバーダム防湿を行う意識は高い. 日本顕微鏡歯科学会会員では,レジン修復や補綴処置に関してもラバーダム防湿を行っている頻度は高く,一般開業医では,残存歯質の関係でレジン隔壁が必要な患歯などに,時間をかけていられないということもあると推測される. ただし,ラバーダム防湿を行うにあたって,図2に示したように,1)患歯に適合するクランプの選択をしなければならない.通常代表的なクランプを用意している先生方が多いと推測する.データは古いが,図3,4に示したように,クランプの数は多く各社でさまざまな工夫がされている.クランプをいくつか揃えておくことも大切である.もちろん,残存歯質が不十分な場合には,コンポジットレジンなどで隔壁を作製しなければならないので,それらの準備も必要である. 2)ラバーダムシートとクランプの隙間をなくすこと.せっかくラバーダム防湿をしてもクランプとラバーダムシートに隙間があると,口腔内に薬液などが漏れてしまい事故につながることもある.図5左に示したように根管内破折器具を除去する際,ラバーダム防湿が適切にさ日本大学松戸歯学部 特別職 付属病院マイクロスコープ特診外来/松本歯科大学 臨床教授32Part 1-3辻本恭久教育講演より再根管治療を減少させるための考察
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