Tooth Wear
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 「QOL(quality of life):生活の質」という用語は,建築分野でWolfgang Zapf(ヴォルフガング・ツァプ)によって最初に使用された108.WHO(世界保健機関)はQOLを,「自分が生きる文化や価値観を背景とした,自分自身の立場に対する個人の認識」と定義している109~111.口腔の健康に関するQOLは,この概念を口腔健康に特化して関連づけたものである112~114.特定の健康問題がQOLにどのように影響するかを測定し定量化する必要性から110,111,Oral Health Impact Profile-14やOral Health Impact Profile-49などの測定方法が開発された115~118. 上記質問票の価値は,治療前後に患者自身が報告する生活の質の評価にある.TW患者の治療を行う際には,患者から報告されたQOLをつねに考慮する必要がある. PROM(Patient-Reported Outcome Measures:患者報告アウトカム指標)とPREM(Patient-Reported Experience Measures:患者報告経験指標)は,患者の知覚と経験を定量化することにより,QOLを測定する398別のアプローチ法である.PROMは,処置の結果に対する患者の認識を定量化する.PREMは,治療のアクセシビリティに対する患者の認識を定量化する.2005年にEMA(欧州医薬品庁),2009年にFDA(米国食品医薬品局)が,医薬品の評価において有効性とQOLの改善を同時に評価することができると示したことで,PROMとPREMの質問票は臨床家や研究者から高い支持を得ている119. 近年,医療提供者のモデルは,医療者が患者にとっての最善策を知っているという「父権主義的モデル」から始まり,積極的に意思決定のプロセスには参加していなかった患者に情報を提供する「インフォームドコンセントモデル」になり,最近では当事者間の交渉と合意が期待される「共同意思決定モデル」に進化している.生活習慣の変更が必要なTWの治療は,患者が生活のなかで何を変更するか,いつどのように治療を行うかを決定するプロセスに参加してもらうことで,成功する可能性が高くなる120.TW治療を受けた患者と受けていない患者間のQOLの差を調べた論文において,治療を受けることの有効性が示されている121.CHAPTER 10 われわれはTooth Wearの進行をゆるやかにできるだろうか図10-41 TW患者にしばしば必要となる学際的な治療アプローチを考慮し,TWチームは相互に円滑なコミュニケーションをとるべきである.歯科医療者と患者によって形成される共同事業はオープンな情報共有から始まり,それが意思決定や制限事項,妥協点の理解と共有につながる.8.TW患者を中心とした長期管理:QOL,PREM,PROM

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