QDI 2015年5月
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はじめに 歯科インプラント治療は欠損歯に対する有用な治療法の一つであり、その固定式の修復法にはセメントリテインとスクリューリテインとがおもに用いられている(図1-a、b)。なかでも セメントリテインは歯科インプラント治療におけるおもな修復法で1)、米国においては90%のインプラント修復にこの方法が用いられている2)。 セメントリテイン修復の利点として、インプラント埋入位置の許容度の広さ、より簡便な技工行程、 適合性の良さ、審美性の良さ、咬合調整の簡便さなど3、4)に加え、一般歯科医師でもインプラントクラウン修復を天然歯と同様に行えるようインプラントメーカーが考慮した作業の簡便さ5)が挙げられる。一方、欠点としては、予測不可能な保持力や、除去が困難な余剰セメントの組織に対する為害性がある4)。これは、インプラントセメントリテイン修復において歯科用セメントを歯肉縁下に取り残しやすく、また取り残した余剰セメントはインプラント周囲組織に異物反応による炎症を惹起する可能性があるためである6)。2013年には、米国歯周病学会がインプラント周囲炎のリスクファクターのひとつに余剰セメントを挙げた7)。そして近年では、余剰セメントの為害性が注目されるようになった8、9)。 本稿ではインプラントセメントリテイン修復における余剰セメントの為害性、対処法について多角的に考えていきたい。なぜ余剰セメントが問題なのか?1.余剰セメントの為害性 Wilson10)により、余剰セメントの存在とインプラント周囲炎との強い関係が発表された。インプラント周囲炎を惹起しているセメントリテイン修復の81%にエンドスコープによって余剰セメントが確認された。インプラントセメントリテイン修復における余剰セメントは、天然歯における根面歯石と同様で、セメントの表面粗さがインプラント周囲組織に炎症をもたらす可能性があると示唆された。そのため、インプラント周囲組織の炎症が余剰セメントによるものと考えられた場合、補綴物を除去して余剰セメントを取り除くか、補綴物が除去不可能な場合には歯肉弁を剥離して余剰セメントを除去する必要がある10、11)(図2)。 しかし、必ずしも余剰セメントがインプラント周囲炎を惹起するわけではない11)(図3-a~f)。Linkeviciusら11)は、歯周病歴のある患者は歯周病歴のない患者に比べてインプラント周囲炎を惹起しやすいと報告した。余剰セメントが確認された患者のなかで、歯周病歴のある39名は、そのすべてのインプラントがインプラント周囲炎に罹患していたのに対し、歯周病歴のない34名は3名がインプラント周囲炎、20名がインプラント周囲粘膜炎に罹患し、11名が無症状であった。これにより、歯周病歴のある患者に対してのインプラント修復は、スクリューリテインが望ましいと考えられる。インプラント併発症鈴木貴規1(Takanori Suzuki)DDS PhD、Chandur PK Wadhwani2 BDS MSD 1Assistant Clinical Professor, department of Periodontology and Implant Dentistry, New York University College of Dentistry, New York, USA2Affiliate Faculty, Department of Restorative Dentistry, University of Washington, Seattle , USAインプラント修復における余剰セメントの為害性53─Vol.22,No.3,2015381

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