QDI 2015年7月
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Learn The Basics of ImplantLearn The Basics of Implant事件の経緯おもな争点裁判所の判断臨床的ポイント法律的ポイント法律的ポイント臨床的ポイント地方裁判所および判決(第1審)の概要 東京地裁平成25年3月4日判決インプラント治療による業務上過失致死被告事件に対する刑事裁判の経緯・被告人は2007年5月22日午後1時54分頃から午後2時47分頃までに、A診療所においてB子(当時70歳)に対してインプラント治療を実施した。・被告人はB子の左下顎第二小臼歯相当部の歯槽頂からドリルを挿入してインプラント埋入窩を形成するにあたり、海綿骨部分では初期固定が得られなかったため、その先にある舌側皮質骨を意図的にわずかに穿孔し、インプラント体を埋入した。・被告人はアバットメントを取り付け始めたがその途中でB子に異常な反応が見られた。口腔底が盛り上がっていたことから出血があったと考えインプラント体を除去したところ、ドリリングした穴から出血があった。・被告人は当該部分からガーゼを用いて両手の指で圧迫止血をすると、10分ほどで穴から出血が止まったことから、再びインプラント体を埋入したところ、まもなく、B子がうなり声を上げて体をばたつかせ、やがて腕の力が抜けて垂れ下がった。B子の血中酸素飽和度は81%にまで低下していた。・被告人は自ら救命措置を講じるとともに、歯科医師の息子に連絡して応援を求め、AEDを用いたり、心臓マッサージ、人工呼吸をしたりしたが効果がなかったことから、救急車を呼んだ。救急隊は午後3時20分過ぎ頃に診療所に到着したが、B子はすでに心肺停止状態となっていた。・B子は午後4時頃、C病院に搬送され、さらなる救命措置が施されたが、5月23日午後9時18分頃、窒息に起因する低酸素脳症および多臓器不全により、C病院において死亡した。①被告人のドリル挿入が、舌側皮質骨を穿孔させたのか否か②当該穿孔により血管損傷が生じることが、当時の医療水準の下で予見できたか否か・争点①について:本件当時、インプラント治療に関する確立したガイドライン等は存在していなかったものの、下顎骨舌側皮質骨を意図的に穿孔し、その穿孔部を利用してインプラント体を固定する術式は一般的に用いられていないものであって、被告人自身もそのことを認識したうえで、独自に採用していたといえる。・争点②について:海外では1990年頃~2000年頃にかけて、オトガイ孔間における舌側皮質骨の穿孔による大事故がかなり報告されるようになり、1998年頃からそれらの知見が日本でも紹介されるようになった。その後はインプラント手術に携わる臨床歯科医師向けに、具体的な実例や血管の走行状態や下顎骨の形態等の根拠を示しつつ、オトガイ孔間や小臼歯部の舌側皮質骨を穿孔すると、大出血等の事故につながる危険性があることを明らかにする文献の発刊や講演会の開催等が、かなりなされるようになっていたのであり、下顎臼歯部付近の舌側皮質骨の穿孔の危険性は、インプラント治療を行う臨床歯科医師にとって、かなり知られていたことであると推測でき、少なくとも容易に知りうる状況にあったと認められる。142Quintessence DENTAL Implantology─634

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