インプラントの咬合 咬合力の分散と連続性をもった歯列の重要性0525 ─Vol.29, No.4, 202213 インプラント治療の最大の目的は咀嚼機能の回復にある。インプラント補綴によって獲得された新たな口腔機能は、義歯と比べて高い咬合力が得られるだけでなく、装着感などの義歯特有の煩わしさから解放された、患者利益の高い欠損補綴といえるだろう。とくに遊離端欠損症例においては、インプラント補綴によって天然歯と同等の咀嚼機能の回復が可能になり1、歯列の崩壊を食い止めるという意味においても、優位性の高い有効な補綴方法である2。 しかしながら一方で、天然歯とは異なるインプラント特有のリスクファクターが存在する。そのなかでも、とくに大きな問題となるのがインプラント周囲炎である。インプラント周囲炎の感染速度は速く、ときに重篤な症状を呈するため、インプラント周囲炎を防ぐ対策を講じたうえで治療に臨まなくてはならない。 本邦におけるインプラント周囲炎の罹患率は、2017年においてOgataらは9.7%と報告している3が、世界的にはそれよりも高く、2015年のDerksらが行ったシステマティックレビューでは、21.7%とかなり高い罹患率を示している4。また、2016年のCanulloらの報告では、インプラント周囲炎のうち、外科的な要因によるものが40.8%、補綴的な要因によるものが30.4%、そして純粋なプラーク(バイオフィルム)誘発性のものは28.8%であったとし、発症要因のうちプラークがもっとも低い数字を示している。さらに、プラーク誘発性および補綴的・外科的に誘発されたインプラント周囲炎は違った実体を示しており、それぞれに則した適切な原因治療のアプローチが必要であると結論づけている5。 このように、インプラントを臨床応用するにあたっては、インプラント周囲炎を起こすバイオフィルム以外の要因をしっかりと理解する必要がある。本稿では、インプラント周囲炎の外科的・補綴的な要因を整理したうえで、インプラント周囲炎新時代のインプラントの咬合についてあらためて考えてみたい。はじめに
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