第5回インプラント上部構造製作のための印象採得の基本BasicBasic用いた光学印象も利用されるようになっているが(後述)、印象材を用いた印象採得は現在でも主たる方法である。 原則、シリコーンゴム印象材を使用する。その理由は、インプラント体の位置関係の記録には高い精度が要求されるためであり、寸法変化が極わずかなシリコーンゴム印象材が適しているからである。これらの中でも、より永久ひずみ(物体に外力を加えて生じたひずみのうち、外力を除いても元に戻らないひずみ。塑性ひずみともいう)が小さく、硬度のあるインプラント用の印象材が各社から販売されている(図1)。Basic 印象採得を行うレベル(位置)は、インプラントレベルとアバットメントレベルに分けられる。インプラントレベルでの印象採得は、インプラント体に直接、印象コーピングを連結して印象採得する方法で、インプラント上部構造の粘膜貫通部の軟組織形態を記録し、セメント固定式上部構造で使用するカスタムアバットメントを製作する場合(図2)や、既製アバットメントの高径や角度を模型上で選択する場合(図3)、クリアランスの制限などの理由によりアバットメントを介さずダイレクト構造型の上部構造を製作する場合に行う。 一方、アバットメントレベルでの印象採得は、インプラント体に連結した既製アバットメントを介して印象採得する方法で、おもにスクリュー固定式上部構造を製作する際に用いられる(図4)。 クラウン・ブリッジや可撤性義歯といった一般的な補綴装置は、形成した支台歯や顎堤粘膜が印象の対象であり、製作の際にその形態を種々の印象材を用いて正確に記録することになる。一方、インプラント上部構造の製作では、専用(既製)の印象用コンポーネント(以下、印象コーピング)を使用し、埋入されたインプラントの位置関係や周囲軟組織の記録を行うという点で大きく異なる。 また、天然歯や顎堤粘膜は被圧変位量がオッセオインテグレーションしたインプラント体よりも大きく(天然歯で25〜100μm、顎堤粘膜で数百μm、インプラント体で3〜5μm1、2)、わずかなズレは生理的な許容範囲内において許容されるが、インプラントはわずかなズレが生じるだけでも製作された上部構造が不適合となり、無理に装着すると補綴的合併症(スクリューの破折など)や生物学的合併症(周囲骨吸収など)を引き起こすため、高い印象精度が要求される。 本稿では、インプラントのプロビジョナルレストレーションや上部構造を製作するための印象採得の基本と印象精度を高めるポイントについて解説する。 近年では口腔内スキャナ(Intra Oral Scanner;IOS)を112Quintessence DENTAL Implantology─ 0800和田誠大 Masahiro Wada大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野大阪大学歯学部附属病院 口腔インプラントセンター初学者のためのインプラント補綴設計 インプラント上部構造製作のための印象採得印象材を用いた印象採得印象採得を行う2つのレベルとその選択(表 1)
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