Quintessence DENTAL Implantology 2023年No.5
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側にオフセットされ埋入されることであり、これが唇側に位置するようであれば、インプラント周囲粘膜は数ヵ月も経たずに退縮する3〜5。結果、隣在歯よりも「長い歯」を、最終補綴装置として装着することを、術者も患者も受け入れざるを得なくなるのである。 加えて、天然歯‐インプラント間の近遠心的な位置関係は、つねに1.5〜2.0mm程度の距離を保たなければならず、また、インプラント‐インプラント間では、その倍の距離にあたる3.0〜4.0mm離すことが、インプラント埋入時における決まりごととされている4〜6(図1、2)。これを達成できない「近接」の状態になると、歯根膜が存在しないインプラント周囲組織は容易に退縮し、歯間乳頭の喪失に加え、インプラント周囲骨の吸収をきたすこととなる。 審美領域における複数歯欠損のインプラントの水平的埋入位置は、欠損の範囲、インプラントの埋入本数、そして埋入位置の差配により、単独歯と比べて圧倒的にバリエーションが増えるため、インプラントが「近接」の位置に埋入されないよう、あるいは唇側に偏位しないように戦略的に思考しながら、審美‐インプラント治療の最適解を見つける必要がある。1.5〜2.0mm臨床論文骨縁1.5〜2.0mm1.0mm3.0〜4.0mm28Quintessence DENTAL Implantology─ 0744図1 前歯部インプラントの埋入ポジション。唇舌的には隣在歯の切縁を結んだ線の1mm口蓋(舌側)寄りにインプラントのプラットフォームの端が位置するようにオフセットに埋入し、欠損歯の基底結節にインプラントの中心が位置するように埋入。近遠心的にはインプラントと隣在歯の距離、あるいは、インプラントとインプラントの距離を保つように埋入計画を立案する。歯槽骨幅は1.5〜2.0mm程度の厚みがあれば、術後の歯肉退縮のリスクは低い。はじめに インプラントの上部構造として、天然歯と類似する形態の補綴装置を装着することは、患者の審美的な要求を満たすだけでなく、食渣の停滞を防ぎ、清掃しやすいインプラント周囲組織の環境を整える目的においても意義が深い。インプラント周囲組織と上部構造の審美的かつ生物学的な融和は、インプラント治療の永続的な成功のためには欠かせない要因であり、近年のエビデンスの中でも証明されつつある1。 一方、隣在歯と調和した上部構造を装着するための必要条件として外科術式の観点から、①インプラントの水平的埋入位置、②インプラントの垂直的埋入位置、③インプラント周囲骨幅の確保、④インプラント周囲軟組織の厚み、⑤切開線のデザイン、などが列挙される2。なかでも「①インプラントの水平的埋入位置」の精察は、審美‐インプラント治療の成功に直結するもっとも重要な要素であり、いくら骨造成や軟組織移植を成功させようとも、インプラントの埋入位置が適切でなければ、高次元での審美性の達成は不可能であると断言できる。そのセオリーとは、審美領域におけるインプラントは唇舌的に隣在歯の切端を結ぶ仮想線より1.0mm口蓋佐藤琢也 Takuya Satoh大阪府開業:サトウ歯科デンタルインプラントセンター大阪大特集審美領域における複数歯インプラント治療のセオリーと実践補綴術式と埋入ポジションの戦略的考察

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