Quintessence DENTAL Implantology 2023年No.5
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第11回上顎前歯部における再建的な硬・軟組織マネジメント3演者論202文 前回は、上顎前歯複数歯欠損症例に対するインプラント治療について、治療ゴールの設定、歯間乳頭の再現、現存する組織の応用として、矯正的挺出とPartial extraction therapy(PET)について検討した。実現可能な軟組織形態を設定し、その目標に向かって残存歯の歯根膜の機能を応用することによって硬・軟組織を造成、または骨欠損部のGBRの条件を整えることによって天然歯に近似したインプラント周囲軟組織形態を獲得できることを示した。 しかし、実際の臨床では、根尖付近まで進行した重度歯周炎、インプラント周囲炎の進行、歯根破折、セメント質剥離から生じる感染の進行、エンド病変、腫瘍の摘出などにより、歯のみならず、歯槽骨、軟組織を重度に喪失してしまった患者に遭遇する。彼らは慢性炎症により長期間にわたり苦しんだ末に、また外傷によって一気に前歯の機能と審美性を失い、日常の生活に肉体的・精神的に支障をきたしている。 本稿では、再建的な硬・軟組織マネジメントをともなう審美インプラント治療について、症例をとおして検討したい。となっていた。前回解説した矯正的挺出とPETを組み合わせることによって、良好な軟組織形態を得ることはできるが、自然な歯間乳頭を創出するには挺出量が大きくなり、歯髄や歯の保存は困難となるであろう1。近年、歯周組織再生療法と歯周形成外科の技術を併用すること、病変部へのアクセスを工夫することによって、審美性を改善しつつアタッチメントゲインを獲得できる可能性が高まっている2〜8(図1)。 インプラント周囲硬・軟組織をマネジメントして審美インプラント治療を行うか、天然歯歯周組織をマネジメントして歯周組織再生と審美性の改善を行うか、どちらも容易ではなく、実現できる軟組織形態は大きく変わらないと感じている。つまり、天然歯の歯質、ポジションなど条件が良ければ、審美性の再建が重要な前歯部においても天然歯保存の可能性が高まっている。両方のメリット・デメリットをフェアに患者へ説明し、治療方針を決定すべきであろう11。 単独歯欠損であれば、隣在歯の付着レベルが歯間乳頭の再現性を左右することが報告されている12。臨床においては、歯周炎、歯根破折による炎症、インプラント周囲炎により、インプラントサイトの隣在歯のアタッチメントが喪失する場合も少なくない。歯の欠損部、インプラントサイトの垂直的な増大と隣在歯の歯周組織再生を試みることによって、健全な歯間乳頭の完全な再現は困難であるが、ある程度は改善でAdvanceAdvance70Quintessence DENTAL Implantology─ 0786大特集インプラント治療を選択する前に 進行した水平性欠損をともなう歯周病は治療によって炎症をコントロールできたとしても、軟組織が退縮し審美性が低下してしまうことがあり、前歯部歯周治療におけるジレンマはじめに審美性獲得のための硬・軟組織再建のゴール石川知弘 Tomohiro Ishikawa静岡県開業:石川歯科インプラント治療のための硬・軟組織マネジメント

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