Quintessence DENTAL Implantology 2023年No.6
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第12回(最終回)経過観察時に上部構造に生じる生物学的問題事象とその対応88Quintessence DENTAL Implantology─ 0984 本連載の最終回となる今回は、最終上部構造装着後に生じる生物学的問題事象を取り上げる。生物学的問題事象は、インプラント体あるいは上部構造を取り巻く硬・軟組織(周囲粘膜や支持骨)に生じる問題やこれに続くインプラント体の喪失である。おもな原因は、細菌学的要因と力学的要因に分けられ、これまでにさまざまな報告がなされているが、本稿では上部構造に起因する細菌学的および力学的要因を中心に解説する。 生物学的問題事象には、インプラント体周囲の硬・軟組織を中心とした炎症性反応、すなわちインプラント周囲疾患と、その結果生じるインプラント体の喪失が含まれる。インプラント周囲疾患の分類を表1に示す。現時点では、2017年のコンセンサスレポート1に基づき、「健康なインプラント周囲組織」「インプラント周囲粘膜炎」「インプラント周囲炎」「インプラント周囲における硬・軟組織の欠如」の4つに分類され、それぞれの病態が定義されている。 また、本コンセンサスでは、インプラント周囲疾患や硬・軟組織の欠如の主たる原因は、細菌学的要因(口腔清掃不良、歯周病の既往など)や生体要因(糖尿病、喫煙、角化粘膜の欠如など)が挙げられているが、インプラント支持補綴装置のデザイン(不適合やオーバーカントゥア、インプラント位置異常)やセメントの残留といった補綴装置の要因や、過重負担などの力学的要因についても触れられている。現時点では過重負担に対する明確な根拠はないとされているものの、インプラント周囲疾患の発症に強い関連があるとされる口腔清掃不良は、単に患者の技術的側面のみならず、上部構造の形態自体が清掃性に大きく影響を与えることを理解すべきである。 ここからは、比較的エビデンスレベルが乏しいとはされているが、上部構造の力学的要因や患者固有の因子(ブラキシズムなど)、全身あるいは口腔内状態の経年変化に対する上部構造の影響を取り上げたい。BasicBasicクラウン‐インプラント比(C/I比) 近年、年齢や全身疾患の存在、解剖学的な制約などを理由に骨造成を避けて、ショートインプラント(長径6mm以下)を使用することも可能となっている。実際、これまでの報告においてもショートインプラント自体の残存率は、通常の長さのインプラントと同程度としている論文も多く2、有効な治療オプションの一つといえる。 ただし、固定性上部構造の支持にショートインプラントを利用した際、避けられないのは、不利なC/I比である。天然Basic和田誠大 Masahiro Wada大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野大阪大学歯学部附属病院 口腔インプラントセンター初学者のためのインプラント補綴設計 はじめに最終上部構造装着後に生じる生物学的問題事象上部構造の形態が及ぼす影響

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