Quintessence DENTAL Implantology 2023年No.6
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第12回(最終回)トラブルシューティングのための硬・軟組織マネジメント100Quintessence DENTAL Implantology─ 0996 本連載では、これまで部位ごとにインプラント周囲硬・軟組織マネジメントについて検討してきた。最終回となる今回は、インプラント治療のメインテナンス期間中に発生する問題として、組織の退縮、インプラント周囲疾患について検討したい。 上顎前歯部のインプラント治療においては審美性の獲得が必須の条件であるが、軟組織の退縮によって歯冠長が長くなることや、コンポーネントの露出によって引き起こされる審美不良が大きな問題となる。特に抜歯即時埋入においては唇側骨が保存されている抜歯窩でも12ヵ月以上の経過で最大64%におけるサイトで1mm以上の退縮が報告されている1。 インプラントの唇側軟組織退縮の原因として、インプラントの唇側転位、インプラント唇側骨の裂開、開窓、菲薄な軟組織、角化組織の不足、オーバーブラッシング、軟組織の炎症、補綴装置のオーバーカントゥアが考えられるが、なかでもインプラントの唇側転位がもっとも重要な原因であると考えられている2、3。 つまり、インプラントが唇側に転位すれば、抜歯窩治癒後にインプラント唇側に形成される骨は薄くなるか、もしくはインプラントの唇側に骨欠損が残存する。また、唇側骨が吸収したヒールドサイトに埋入された場合、あるいはGBRなどの骨造成後の歯槽堤も口蓋側の骨に抵抗を受け、インプラントは唇側に傾斜する傾向を示す。その場合、唇側骨の幅が1.8mmを下回れば治癒過程において垂直方向へ吸収し、インプラントが骨内から露出する可能性が高まり4、さらにインプラント埋入後の唇側骨幅が1.5mmを下回ると生理的、病的な骨吸収が大きくなることが示されている5。筆者は特に、前歯部においてはインプラント埋入後、サージカルテンプレートでそのポジションを慎重に評価し、不適切であると判断された場合は、迷わず撤去、再埋入することを強く勧める。 審美エリアへの単独埋入インプラントにおける唇側軟組織の退縮について、その量、補綴装置の形態、インプラントの頬舌的なポジション、さらに隣接部の軟組織の高さを基準に病態が分類され、その治療法が示されている6、7。その中で、インプラントのポジションが本来の補綴装置の唇側マージンよりも唇側に転位し、隣接部の軟組織も失われている場合は撤去が推奨されているが、筆者も同感である8。その場合、硬・軟組織のマネジメント、インプラントの再埋入とリカバリーには多くの労力を要する。埋入術中の精密な確認が重要である9。再埋入時の初期固定が弱くても、適切な治癒期間を設定すればインプラントはインテグレーションする。 また、インプラントのポジションが許容範囲にあれば、必要に応じて補綴装置の形態を改変し、軟組織移植によって改AdvanceAdvance石川知弘 Tomohiro Ishikawa静岡県開業:石川歯科インプラント治療のための硬・軟組織マネジメント はじめに組織の退縮

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