Quintessence DENTAL Implantology 2024年No.2
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東京都開業:オカダ歯科クリニック 審美領域における抜歯後のマネジメントの選択肢の1つとして、リッジプリザベーション(歯槽堤保存術;以下、ARP)は即時インプラント埋入が適応できない場合によく行われる術式である。しかし、2023年の第7回ITIコンセンサス会議1のリスク評価によると、審美領域の即時インプラント埋入についてリスクの低い適応症は少ない。審美領域の硬・軟組織はThin(薄い)フェノタイプが多いといわれ、特に唇側の骨壁が1mm以下であるケースが多い日本人では2、即時インプラント埋入時にリスクが中等度に上がる場合が多く、慎重な対応と高度な術式が必要となる。また、一般的なARPの術式は6ヵ月以上の待時が必要といわれているが、唇側骨壁の薄い日本人では抜歯後6ヵ月以上待時してしまうと、ARPを行ったとしても硬・軟組織が吸収し、インプラント埋入時に再度大規模な骨造成が必要となる可能性が高くなる。 抜歯後の骨吸収は唇側骨の厚みに左右される3。Chappuisら4は、CBCTにて唇側骨壁の厚さ別に骨吸収を確認したところ、抜歯前と早期インプラント埋入の待時時間である抜歯後8週とを比較検討すると、唇側骨壁の厚みが1mm以下の場合は唇側中央部で平均7.5mmの大きな骨吸収を認め、唇側骨壁の厚みが1mm以上の場合は唇側中央部で平均1.1mmの骨吸収で済んだと報告している。そしてこの骨吸収は抜歯後も継続されるとしている5。また、ARPを行って抜歯窩の骨の厚みを増やすことで骨造成を回避できる可能性について、臼歯部のような2mm以上の骨の厚みがある抜歯窩では骨造成を回避できる可能性が高く、前歯部のような厚みが1mm以下の場合は骨造成を回避できないが、小規模な骨造成と同時のインプラント埋入ができる可能性が高いと報告されている3。これらを踏まえChenら6は、審美領域に対して抜歯後8週での早期インプラント埋入を前提としたARPの良好な成績を報告している。このARPのプロトコルは、従来のように、抜歯窩において新生骨の形成を期待して待時し半年後にインプラントを埋入する待時埋入ではなく、歯槽骨の吸収を抑制し、抜歯後8週に外側性の骨造成とインプラント埋入を同時に行う、早期インプラント埋入である。 本稿では、審美領域においてARPを行い抜歯後8週で同時法のインプラント埋入を行う重要性をテーマに、10年以上経過した症例を振り返り、その経験を現在の治療においてどう活かしているかについて深く検討したい。78Quintessence DENTAL Implantology─ 0250岡田素平太 Soheita Okadaはじめに長期インプラント症例を再評価する両側上顎中切歯にリッジプリザベーションを行いインプラントを早期埋入した10年超経過症例

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