筆者の初めてのインプラント治療は、1999年5月に行った₇₆₆₇部への4本のインプラント埋入である。欠損補綴として当たり前に行われていた健全歯削合による補綴処置、身体でいちばん硬いエナメル質をダイヤモンドバーで削合する治療、自身がしてほしくない治療を保険という縛りのなかで患者に勧めることの懐疑から、インプラントに興味をもったことを思い出す。 インプラント治療は決して簡単な治療法ではなく、全身状態はもとより基本的な歯周治療、う蝕治療、口腔全体の粘膜組織と骨組織の状態、全顎的咬合バランス、インプラント埋入部の局所的状態などに基づいて総合的に判断して行うものである。正しい検査・診断のもとに行われればインプラント治療はすばらしい治療法であり、患者の生活の質を変え、その向上に貢献できることは確かである1。本稿では、各論的な術式での長期安定ではなく、臼歯部咬合支持域の回復と咬合バランスにフォーカスを当て適切な埋入本数と部位がもたらす長期安定について示したい。 まずは、今回のテーマである「長期的に予知性のある最小限の埋入本数と部位」について考えたい。欠損に対してどの部位に何本インプラントを埋入することが長期的な安定につながるのだろうか。欠損部位に対して適切な部位に適切な本数を埋入することがメインテナンスしやすい環境を作り、また、最小限の本数で最大の咀嚼効率を生むことは患者の経済的負担といった側面からも重要なことであると考える。そして歯周病と同様に、歯(インプラント)の配列や補綴環境が良いことは長期的安定にもつながる。 欠損のある口腔内における咬合維持安定の難易度を対合関係・歯数・欠損エリアに着眼し診断する方法として、宮地の分類やEichnerの分類などが挙げられる。筆者は、宮地の分類とEichnerの分類の考え方をベースにインプラント埋入部位と本数を決定している。具体的には、対合箇所数(咬合支持数)と欠損進行歯数の減少をそれぞれ縦軸と横軸に振り分け、座標位置で症例の難易度を読みとり(図1)、それに上下顎の両側小・大臼歯群による4つの咬合支持域の残存状態で判断する(図2)。最少歯数で最大の咬合支持域を確保するた86Quintessence DENTAL Implantology─ 0606神奈川県開業:柴垣歯科医院はじめに長期的に予知性のある最小限の埋入本数と部位長期インプラント症例を再評価する─宮地の分類・Eichnerの分類をベースに─柴垣博一 Hirokazu Shibagaki長期症例から裏付けられる予知性のある最小限の埋入本数と部位
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