QDT1月
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各国総義歯事情(前編) 日本の歯科界には世界に類まれなる技術で木床義歯の技術を発展させ、その後もさまざまな「総義歯の達人」たちを輩出してきた歴史がある。その結果として現在では、さまざまな「流派」が存在し、それぞれのコンセプトに沿った臨床家のグループが講演や執筆を活発に行っている。この状況は、著者らが「ザ・クインテッセンス」2014年2月号でも示したように、それぞれが道筋は違えども患者満足を得るための同じ山を登っているようなものと考えられ1、一概に否定することはできない。しかし、卒後間もない初学者や義歯に触れる機会の少ない歯科医師にとっては混乱のもととなっているのも事実である。また、卒前教育においても各大学間でコンセプトの差異がみられ、この点も迷いを生じさせる一因と考えられる。 現在では、2002年にDouglassらが米国に関して予測しているように2、総義歯の需要がある意味ピークに達しており、また一方でBPS(Ivoclar Vivadent)のようなシステマチックな製作法やCAD/CAMを用いた義歯製作方法が注目され、確実に浸透しつつある。このような状況は、インプラント治療が大きく取り上げられることの多い海外でも同じなのであろうかとの疑問が湧くのは当然の帰結である。それには次のような2つの大きな理由がある。・まだ義歯を必要とする人が多く存在する Carlssonが述べているように、全世界で部分欠損を含めて欠損補綴を必要とする患者の数を仮に6億人として仮定しても、実際にインプラント治療を受けることができるのはその1.7%に過ぎないとされているからである3。わが国においても2012年の厚生労働省歯科疾患実態調査において、現在インプラントを有している割合は50歳代で5%に近い値を示しているものの、全体としては2.6%程度にとどまっている4。今後これらの割合は多少増加する可能性はあるものの、決して多数を占めることになるとは考えられない。・すでにインプラント補綴を有している患者において、可撤性義歯への改変や、義歯との共存が必要となる可能性がある 先の厚労省の統計においてもうひとつ注目すべきは、70歳代、80歳代においても数パーセントの人がインプラントを口腔内に有していると考えられ、口腔内や全身状態の変化によって可撤性義歯への改変や、義歯との共存が必要となる可能性が出てくることである(図1、2)。なぜならば、追加のインプラント治療をすることが不可能な場合が多く、かつKimuraらが報告しているように、施設においての口腔の清掃に困難はじめに図1a~c 69歳女性。固定性インプラント補綴装置の下部への食片の滞留と上顎全部床義歯の維持力の不足を主訴に来院された。主訴の解決のため、固定性補綴物を除去しマグネットアタッチメントを利用したインプラントオーバーデンチャーへ改変を行った5。abc■固定性インプラント補綴から可撤性義歯への改変が必要な症例もある
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