QDT2015年7月
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従来、歯学部教育における講義は板書を主とし、教科書や配布プリントといった紙ベースによる資料を使って行われてきた。また、実習においても実習帳やインストラクターのデモンストレーションを手本として習得に努めてきた。とくに技能のスペシャリストである歯科医師の育成には、教員が少しでも歯科学生の理解度と技能が向上するようにと、試行錯誤を繰り返してきた。 まず講義のビジュアル化という観点では、当初はOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)を用いた。OHPは、講義室内でより大きく映し出すことができ、またOHPシートに直接書き込める手軽さも活用された要因であった。その後、OHPシートに印刷する必要がなくそのまま映し出すことが可能である手軽さから、書画カメラを使って講義が行われた。その後より臨床症例写真を学生に供覧し、少しでも理解を深めるべく、35mmスライドと映写機を使った講義も行われてきた。エックス線写真や症例の術中写真をより多く見せることで、臨床への興味をもたせるのに役立った。ただ、35mmスライドの作成にはかなりの労力が必要であったことは否めない。 一方で、実習環境の整備にも変化があった。学生の実習台には、各学生ごとにファントームに装着した顎模型が用意され、その模型歯を切削し技術の向上を目指していた。1人のインストラクターを数十人の学生で取り囲み、インストラクターの手本を眼で見て、各自が模型歯を繰り返し切削し汗を流した毎日であった。狭いファントームの口腔内の模型歯を覗き込むことは容易ではなく、手本のように切削するまでには、数本の模型歯を削った経験を覚えている。また、インストラクターの指摘には個人差があり戸惑うこともあったが、手本通りに削るために四苦八苦した経験があった。 その後、学生の実習台にもモニターが設置されるようになり、教壇の書画カメラやインストラクターの手元が映像として学生が実習台で確認できるようになった。見えにくかったインストラクターの手元が映し出される映像によって、学生に詳細を伝えることができた。とはいうものの、すべてを映像で伝えきれることはなく、インストラクターのデモンストレーションも必要で、映像はその補助的な役目を担う手段であった。 近年、マルチメディア環境の整備により、講義・実習の形態も一変した。コンピューターおよび液晶ディスプレイの開発・普及によりMicrosoft PowerPointのようなプレゼンテーションソフトウェアを駆使して講義のスライドを作成し、器具・機器の写真や症例写真などをより鮮明に学生に伝えることができるようになった。また、小さい器具・材料などもプロジェクターで大きく映し出すことができる。 また、動画教材を使っての講義・実習も可能となった。本学でも約5年前から動画教材を使った実習を順次行っている。見えにくいインストラクターの手元を少しでも見やすくわかりやすく学生に見せるには、とても有効な方法ではないかと考え導入している。 このように、教員から学生へと教える手法はマルチメディア環境の整備により、いっそう鮮明かつ分かりやすくなった。デジタル化が進むことで、さまざまな形で講義・実習を学生に提供できるようになった。ネットワーク環境・タブレット端末によるeラーニングシステムの活用も可能となった。学生は、標準化された授業を自由な時間と場所で各自の習熟に併せて進めることができるようになった。ただ、質問・疑問などがその場で解決しにくいといった点も考えられるが、講義・実習の予習・復習として活用することで、補うことができると考えられる。 しかしながら、歯科医師にとって必要な技能の習得については、人工歯の切削による実習が数多く行われてきた。保存修復学分野では、従来型グラスアイオノマーセメント修復、アマルガム修復、メタルインレー修復および光重合型コンポジットレジン修復が技能実習の主たる課題であった。いずれの修復法も、窩洞形成が必須かつ最優先事項であり、その形成を教えることの難しさが現はじめに ─学生教育のデジタル化の歴史─
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