QDT 2016年3月
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補綴治療前のMTM―歯を動かすことで補綴が変わる―1313 MTM(Minor Tooth Movement)は、一般的な矯正専門用語であるが、これは、全顎矯正(Major Tooth Movement)の“Major”と比較して“Minor”な、すなわち「部分の矯正治療」という意味で用いられている。しかし、どちらも略せば“MTM”なのである(以下、本稿ではMTM=Minor Tooth Movementとする)。 さて、貴重な紙面を使って笑い話を披露するつもりではない。筆者の真意は、部分矯正も全顎矯正も同じ範疇にある点を伝えることにある。後述するが、Major>Minorというイメージから、全顎矯正より部分矯正がより安易な方法と思われがちであるが、症例によっては部分矯正が全顎矯正より難しい場合もあるため注意を要する。 歯列不正は、咬合や歯周組織にさまざまな問題を引き起こすため、補綴前処置として歯牙の位置異常を改善することが、より高いレベルの治療結果につながることは周知である。そして精度の高い補綴処置を行う まず、補綴前処置としてMTMを行い歯列不正を改善することで、どのような利点が生じるのか考えたい。その最大の利点は、低侵襲な治療、いわゆるMinimally invasive treatment(以下、MI)の可能性を高ためには、歯列不正を適確に診査・診断することが重要で、中でもオーバージェット、オーバーバイト、犬歯や臼歯の咬合、アンテリアガイダンスなど、咬合の決定要素となる部分の診断がとくに重要となる。さらに、歯列が理想的な位置、すなわち顔貌のどの位置にあるべきかを考慮することが重要で、顔面頭蓋と歯列の立体的な位置関係を明確に把握し、この調和が得られてはじめて中心位/咬頭嵌合位/アンテリアガイダンスの顎口腔系としての理想的機能が得られることになる。そこで、これらを科学的に確認するために、セファロ分析法(頭部エックス線規格写真法)の有効活用が考えられる。よって、MTMといえども、全顎矯正と同等の矯正診断に基づいた診査・診断を行うことが重要である。本稿では以上のような概念に基づき、補綴治療前のMTM、中でもとくに挺出とアップライトに主眼をおき解説する。められる点である。 MTMによって歯列不正を改善することで、場合によっては補綴の介入をなくすことも可能になる。逆に、歯列不正の改善を行わずに補綴処置のみで対応した場合に起こりえる問題点を考えてはじめに1.MTMの利点歯列不正の改善を行わずに補綴処置のみで対応した場合に起こりえる問題点を考えよう図1a、b 前突した上顎左側中切歯を補綴により歯冠方向を修正された症例。abQDT Vol.41/2016 March page 0325
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