QDT 2016年3月
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33 咬合器が発明1されて以来約200年が経ち、初期には顎関節の構造がないものや、小さく扁平化したラグビーボールのようなものが、そして近代になって丸い金属球や下顎頭を模倣した咬合器などがそれぞれ使用されてきた。しかし、実際の患者固有の顎関節形態を搭載した咬合器の開発は、関節円板の存在が邪魔になり、実現が困難であった。こうした中、2012年、「the Quintessence」誌上にて、11月号・12月号と世界で初めて実際の患者の顎関節を搭載した3D咬合器についての報告をした2、3。 今回はその臨床応用として、高度の顎関節変形をともなう顎関節症患者に、本講座で開発した個人用顎関節造形モデル咬合器を使用し、ゴシックアーチにより1 患者基礎データ①患者年齢および性別 68歳、男性。②初診 平成25年11月。③主訴 総義歯製作依頼。④家族歴 特記事項なし。⑤顔貌所見 とくに左右の著明な非対称性は認められない。採得した中心位での下顎位を再現し、総義歯を製作した。 現在、顎位を設定する上で中心位を決定する場合、各術者が手探りのブラインド化された状況で設定せざるを得ない。そのため、垂直的、水平的に適切な顎位を決定する方法のひとつとしてコーンビーム断層撮影法(以下、CBCTと略す)を活用し、視覚的に、三次元的に中心位を確立する方法は有用であると思われる。おそらくゴシックアーチでのAPEXでの顎関節モデルは世界でも初めてであろうと思われる。 なお、今回、新義歯製作にあたり、祇園白信仁教授(日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅰ講座スタッフ)らの協力をいただいた。⑥内科的疾患 とくになし。⑦既往歴 とくになし。⑧現症 当初、顎関節症の兆候は認められなかった。初診時は治療説明のみで、処置を行っていなかった。初診から約10日後から、食事の際に右側顎関節部に疼痛を生じた。また、右側方運動時に疼痛を生じ、左側方運動時には痛みはない。⑨初診時における口腔内所見 2年前より上下総義歯装着。5相当部に根面板が装着されている(図1~3)。 上下顎堤ともに中等度の顎堤の吸収で、対向関係はⅠ級である。また、顎堤の局所被圧変位量は小さい。はじめに症例供覧QDT Vol.41/2016 March page 0345
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