QDT 2016年6月
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下顎総義歯印象のパラダイムシフト(前)1717図1 新義歯に対する患者満足度は顎間関係の正確性(CR記録の正確性と適正な安静空隙)と強く関連し、患者の義歯に対する順応能力はこれより小さいが相関する。顎間関係再現の正確性には、下顎義歯の維持・安定と下顎顎堤条件が影響を及ぼす3。患者満足度構造モデル(潜在変数と統計学的有意パス) 筆者は、現岩手医科大学名誉教授の田中久敏先生のもとで19年間にわたって有床義歯補綴学の臨床・教育・研究に携わってきた。そこで学んだ総義歯補綴学はCarl O Boucher(歯科医師、1904-1985年)の理念そのものであり、米国オハイオ州立大学大学院でCarl O Boucherに直接指導を受けた田中久敏先生のご指導のもと、そのまま臨床・教育に反映させてきた。大学を辞して11年となった現在、臨床手法を変更した部分はあるものの、大きな幹は変えていない。 そもそも補綴治療の本質が、力学的・審美的問題の解決を目指して行うリハビリテーションであり、患者のQOLを高める治療であることから、治療のエンドポイントは患者の求めるQOLに依存する。現在、研究論文において総義歯の治療効果を客観的に評価する手法として、OHIP(Oral Health Impact Prole)1を代表とするアンケート調査を主体とした「患者満足度分析」が多く用いられてきているのは,患者のQOL向上が得られたか否かの判断が求められるためと考える。総義歯治療においてさまざまな印象テクニックや人工歯排列法が存在し、それをシステマティック・レビューで検討した報告2では、患者満足度に関して義歯製作方法の違いや、リンガライズドオクルージョンとフルバランスドオクルージョンの違いなどがもたらす差はほとんどないという見解が示されている。しかし、それぞれの義歯製作方法にはひとつの共通点があり、それは適切な下顎位(垂直的・水平的顎間関係)が設定されているということであろう。新義歯に対する患者満足度には、顎間関係の正確性(CR記録の正確性と適正な安静空隙)が強く関連し、また顎間関係の正確性には下顎義歯の維持と下顎顎堤条件が影響を及ぼすことが明らか3とされている(図1)。 総義歯製作の各過程における印象以外のすべての問題が、その解決を印象の成功に依存していることから、各臨床家が目的とする総義歯補綴の成功を得るためには印象採得が重要な意義をもつと考える。成書は「辺縁形成(筋圧形成)を行い、義歯床縁は可及的に大きく作る」と教えているが、無歯顎の口腔には境界線がなく、軟組織に囲まれていることから、成書を理解しないで言葉を信じると大きな誤りを犯す。そこで機能解剖、すなわち義歯床を取り囲む組織がどのように構成はじめにF5下顎顎堤条件F2下顎義歯の維持安定F3順応能力F4顎間関係F1患者満足0.29****-0.50****-0.05**0.19**0.71****0.17*0.48****D40.61D10.87新義歯に対する患者満足度顎間関係の正確性(CR記録の正確性と適正な安静空隙)患者の義歯に対する順応能力下顎義歯の維持と下顎顎堤条件強く関連する影響を及ぼすQDT Vol.41/2016 June page 0739
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