QDT 2019年4月号
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60Feature article #2ある症例から歯肉との調和を目指した 前歯部セラミッククラウンの製作肥川憲一郎 HIKAWA Dental Laboratory/大分県佐伯市大字池田2053-1 上図は不自然な前歯をやり直したいという主訴で来院された患者の口腔内である。 患者はこの補綴物を装着した時点では特に何も気にならなかったという。となると、患者の表現する不自然さとは経年的に生じたと思われる現補綴物のマージンの露出による歯頚部の暗さ、歯間乳頭の退縮によるブラックトライアングルの発生を指すのではないだろうかと予想される。患者の要望に対し歯科技工士としては新たな補綴物を製作することになるのだが、果たして新たな補綴物を装着することだけが患者の主訴の解決になると考えられるのだろうか。 S shape profileという概念がある。1995年に行田克則氏(歯科医師・東京都世田谷区開業)により提唱され、その後小田中康裕氏、滝澤 崇氏(ともにオーラルデザイン彩雲)とのパートナーシップの下、数々の論文が発表された。S shape profileを前歯部審美不良の改善に適応させることにより、理想に近い歯冠形態を再現できるばかりでなく、辺縁歯肉の変化、つまりマージンの露出やブラックトライアングルの改善や防止にもある程度応えることができるという。つまり歯冠形態を回復させるための補綴物製作だけにとどまらないということである。辺縁歯肉にも働きかけることで補綴物との調和を目指し、長期的な維持を図るところまで、歯科技工士としてもチームに参画・協働できるのである。 本稿では筆者がemergence profile決定のためにS shape proleの考えを取り入れ実践した症例を供覧し、その補綴物の製作手順についてクラウンカントゥアの与え方を中心に紹介したい。また、それらの経過観察の報告から、審美修復治療におけるチーム医療の在りようを改めて考えたい。QDT Vol.44/2019 April page 0554
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