QDT2020年9月号
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23咬合面形態を確かにする歯科技工士と歯科医師とのチームアプローチ ─時代を画する常温重合レジンを応用して─(後編:人工歯編) 義歯装着者の咀嚼能力に影響を及ぼす因子のひとつに、臼歯部人工歯の咬合面形態が挙げられる。臼歯部人工歯は、咬頭傾斜角が大きく咬頭が高いほうが咀嚼能率は高く1、咬頭傾斜角が小さいほうが咀嚼時の義歯の安定には有利である2。解剖学的形態を有する咬合面がもっとも生体に合理的であり、咬合力負担軽減において頬舌側幅径の縮小は咬頭のバランスを得る点で不安が残る3との報告もあり、臼歯部人工歯は咬合平衡を考慮しつつ可及的に天然歯を模倣した解剖学的な人工歯が推薦されている4。 臼歯部人工歯は、咬合面形態によって①解剖学的人工歯(咬頭傾斜角30°以上)、②機能的人工歯(咬頭傾斜角20°前後)、③非解剖学的人工歯(咬頭傾斜角0°)に分類されている5。その形態は天然歯の完全な再現ではなく、義歯の固定機序が天然歯と大きく異なり、顎堤部の保護と義歯の安定を考慮して咬頭傾斜角を緩くするとの考えに基づいている4。 翻って、臼歯部人工歯は①義歯の安定、②咀嚼能率、③顎堤の保護など機能性を重要視した設計がなされている。物理的および機械的な物性には①耐摩耗性、②耐衝撃性、③表面滑沢性、④耐変着色性などが求められる6。また、人工歯は材質の違いによって①陶歯、②レジン歯、③硬質レジン歯、④金属歯がある。したがって、口腔内の環境や咬合関係に応じて、材質や大きさ、咬合面形態などを考慮して人工歯を選択しなければならない6。 全部床義歯の使用平均年数は約6年半であったが、適切な使用年数を大きく超過したと考えられる13年以上使用した患者も含まれており平均年数を押し上げていると考察し、半数の患者が再調整を希望して4年以内に来院したとの報告がある7。その多くは人工歯の摩耗によって咬合面形態の変化や咬合支持の消失などを招いており、その対処法として摩耗した人工歯の置換や義歯新製が余儀なくされることが多いであろう。 また、耐摩耗性や色調再現性に優れた硬質レジン歯が現在のところ第一選択であると考えられているが8(表1)、義歯材料のアクリルレジンとの接着を疑問視する意見や、より咬耗の少ない超硬質レジン歯を使用することで有床義歯の寿命が延長されてコスト面でも有利であるとの意見もある4。 DMGは、常温重合レジンでありながらセミパーマネントレストレーションに価する歯冠修復材料としてルクサクラウンを開発した10。社内測定データであるが、その物性強度はハイブリッドレジンCAD/CAM冠を優越し、人工歯の材料としての耐摩耗性や色調再現性を十分に兼ね備えている11。 このルクサクラウンを用いて耐摩耗性に優れた人工歯を製作することで、これまでの硬質レジン歯以上に咀嚼能力の回復・維持に貢献すると言っても過言ではない。ただし、セミパーマネントレストレーションであるとはいえ、保険適用の人工歯ではないことから適応する症例(自由診療など)は限定されるであろう。はじめに (中村)1.臼歯部人工歯の材質を追考する①耐久性・安定性磨り減らない、破折しない、汚れない②審美性形態、色調が天然歯に相似する③機能性排列性、咀嚼効率に優れている④機械的・物理的特性粉砕力、多様な飲食物、口腔内細菌などに耐える人工歯に求められる特性表1 人工歯に求められる特性9。QDT Vol.45/2020 September page 1145

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