QDT 2023年10月号
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57QDT Vol.48/2023 October page 1315第6回(最終回) 初めてトップダウントリートメントに取り組んだ症例【初診年月】2013年1月30日【治療終了年月】2014年11月16日【症例の概要】「₃が欠けた」を主訴に来院。【所見】初診時の状況を図1に示す。口腔内所見では下顎両側大臼歯欠損、上顎両側大臼歯挺出、前歯部咬耗、適合不良補綴装置が見られる。エックス線写真からは咬合平面の乱れ、顎関節右側変位、歯牙挺出、咬合高径の低下、下顎角部骨の発達が観察されこの症例を選んだ理由ケースプレゼンテーションえない処置は他院に紹介をしていた。 しかしそんなある日、筆者が行えない処置であったサイナスリフトの必要な患者さんを他院に紹介しようとしたところ、「先生にできないことは先生ができるまで待ってるから」と言う患者さんに筆者は気付かされた。筆者は歯科医師であり、「目の前の患者さんに誠意 息子の病勢が落ち着いたころ、歯科の学びへの扉を2人の友人が開いてくれた。ひとりは、その友人自らが講師を務めていたスタディグループJIADSのペリオコースを紹介してくれ、もうひとりは、大学の後輩が日本臨床歯科学会大阪支部(大阪SJCD)最高顧問である本多正明先生のご子息と同じサークルであったという縁から大阪SJCDのマイクロコースを紹介してくれた。いずれも、2008年のことであった。その後、そこで学んだ一口腔単位での精密歯科治療を実践するためを尽くさねばいけない」という使命感に駆り立てられた瞬間であった。親は子に育てられ、われわれ歯科医師は患者さんに育てられて一人前になっていく。そこで今回は、その後の学びの過程を経て、幸運にも「先生にすべてお任せします」と言っていただけた患者さんに対して行った治療について示してみたい。に症例を検討していた最中、「先生にすべてお任せします」と言う患者さんが現れた。その患者さんとはもともと、筆者の歯科医院と同じテナントに入る店舗の新規開業時にお花を贈っただけの関係性である。 それまでは知識・教養がなかったためコンセプトをもたず、何となく処置をしてきたが、本ケースは初診時から検査・診断を行い、治療ゴールを決めて処置を行うトップダウントリートメントを行った最初のケースである。た。以上のことから、臼歯部欠損補綴が適切に行われず、長期にわたって咬合支持が喪失していたため、前歯部の咬・摩耗、上顎臼歯部歯牙挺出、咬合低下が起こり、主訴の₃の歯牙破損に至ったと想像することは容易であった。患者さんに臼歯部欠損についてお聞きすると、知り合いの歯科医院で長年処置を受けてきたそうだが、その歯科医院ではインプラント処置を行っていなかったために欠損補綴は

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