QDT 2024年7月号
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度・色相・キャラクターを合わせるだけでも余裕がないにもかかわらず、そこにさらに明度という未知の概念が存在していたのである。 当時の歯科技工士はこの明度という概念をどの程度理解していたのだろうか? 確かに、明度という概念を知る以前から、口腔内にメタルセラミッククラウンを装着した際、時折、彩度・色相はあっているにもかかわらず、「何かが違う」という現象が生じることはあった。しかし、当時の筆者は、その「何かが違う」のは、メタルセラミッククラウンと天然歯の構造や材質の違いが原因であり、「そんなものだろう」と気に留めることはなかった。その後、山本氏の論文を読むことで明度という概念を知り、そこから臨床経験を積むなかで、理論的には「明度とは何か」を理解していたつもりであったが、天然歯には「明度」が存在することを筆者自身も何となく感じ始め、「何かが違う」原因が明度にあるのではないかと気づくことになる。 そこで筆者は、「明度を変化させるためにはどうしたらよいですか?」と周囲の先輩方に尋ねるようになった。多くの先輩方に同様の質問をしたが、その答えはほぼ「彩度を下げると明度は上がる」というものだった。しかし、こ 図1の症例を見ていただきたい。上顎右側中切歯のインプラント上部構造の症例で、シェードテイキングは筆者自身が行っている。図2は、筆者が製作したメタルセラミッククラウンセット後の写真である。クリニックで実際に見た際には、クラウンの色調が周囲の天然歯の色調にマッチしているように感じて写真を撮影したのであるが、撮影された写真を確認すると、筆者が製作したクラウンは暗く、生命感がないように見える。れでは「明度の変化」=「彩度の変化」であり、彩度は変化させずに明度を変化させたいという目的の解決にはなっておらず、「色彩学の明度とは何なのか?」、そして「歯科における明度とは何なのか?」という疑問を筆者は長い間もち続けていた。 その後、明度に対する疑問をもちながらも臨床をこなしていくなかで、ある程度臨床的な対処はできるようになっていったが、手探りで経験に頼る部分も多かった。たとえば、近年ではPCを使用することで、天然歯がもつ彩度や色相を数値として把握して分析できるようになったが、明度に関しては、方向性は把握できるものの、彩度や色相のように数値化することはできないと認識していた。明度のような可視化できない概念を、数値化できるとはそもそも考えていなかったからである。 ところが、最近ふとしたことから明度を数値化できることに気がついた。しかし、そのためには、「一般的に認識されている明度」と「筆者の考える明度」の違いを理解していただく必要がある。そこで本連載では、「筆者の考える明度とは何か?」ということを解説させていただきたいと思う。 そこで、このクラウンを再製作すると仮定した場合、明度を上げるためにはどうしたらよいのだろうか? 冒頭で述べたように、筆者が若かったころ、先輩方に「メタルセラミッククラウンの明度を上げるためにはどうしたらよいですか?」と相談すると、「明度を上げるためには彩度を下げればよい」というアドバイスが返ってきた。これは当時の話だけというわけではなく、現在でも同様の返答をする方が多いのではないだろうか?第1回 筆者が長年抱えてきた明度に対する疑問65QDT Vol.49/2024 July page 0781本当に彩度を下げれば明度は上がるのか?

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