QDT Vol.49/2024 October page 1111IOSのスキャン精度を補正するための一提案49図1 IOSに内蔵されている小さなカメラによって撮影された複数のデータを繋ぎ合わせるスティッチング。IOSのスティッチング IOSを用いた口腔内のスキャンには、従来のアナログによる印象採得で起きていた重合収縮や印象撤去時の変形、石膏の硬化膨張などに起因する材料の形態変化の影響を受けないという利点がある。 しかし、IOSでは内蔵されているカメラで撮影された小さな範囲のデータを繋ぎ合わせるスティッチングとよばれる作業が行われており、これにより微細な誤差が生じる。また、この誤差はスキャン範囲が広がるほど大きくなり、データの歪みも増していく3(図1)。 臨床実感としても、前述したようにスキャンする範囲の狭いケース、天然支台歯における単冠や連結固定を行わない少数歯のケース、インプラントにおいてもシングルインプラントであれば、IOSによるスキャンのみで良好な精度を得られている。一方で、多数歯補綴などでスキャンする範囲が広くなるにしたがって、IOSデータの歪みは大きくなり、何らかの対策を行わなければ精度の高い補綴装置製作を行うことはできないと感じている。IOSの歪みの検証 ①スキャン範囲 これを確認するために、簡単な検証を行った。まず、単冠レベルでIOSデータとシリコーン印象材を用いて印象採得後、石膏模型を製作してラボスキャナーによりスキャンしたデータをCADソフト上で重ね合わせた。結果、高い精度で一致しており、切縁においてはむしろシリコーン印象材に若干の伸びがあったため、IOSデータの方が優れているとも言える(図2)。 次に、少数歯ケースでIOSによりスキャンされたデータと、シリコーン印象材を用いて片側のみ印象採得後、石膏模型を製作してラボスキャナーによりスキャンしたデータをCADソフト上で重ね合わせた。結果、2つのデータに大きな差異は認められなかった(図3)。スキャンする範囲が狭ければ、IOSでのスキャンでも、シリコーン印象材で印象採得した場合と遜色ない精度が得られることが確認できた。 次に、フルアーチをIOSでスキャンしたデータと、シリコーン印象材で印象採得後、石膏模型を製作してラボスキャナーによりスキャンしたデータを、CADソフト上で重ね合わせたところ、2つのデータに大きな差異が認められた(図4)。これは、前述したようにスティッチングによる誤差の蓄積が、スキャン範囲が拡大するとともに大きくなるためと考えられる。IOSの歪みの検証 ②スキャン対象 また、IOSはスキャンする対象によっても歪みの度合いが変化する。たとえば、欠損によって顎堤が広範囲に存在する場合、顎堤は歯冠部と比較してフラットで単純な形態となるため、スティッチングの誤差が大きくなりやすい。 また、口腔内と石膏模型では、石膏模型をスキャンしたデータの歪みが少なくなる(図5、6)。これは、安定した環境で単一マテリアルである石膏模型をスキャンするのとは異なり、口腔内スキャンでは異なる反射率をもつマテリアルが混在すること、また、写り込んでしまう頬粘膜や口唇、舌、そして唾液の存在等が誤差を大きくしていることが原因と考えられる。とくに、臨床において顎堤部分の唾液を完全に排除することは非常に困難である。first topicIOSにおける歪みの検証
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