ザ・クインテッセンス 2016年3月
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北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座高齢者歯科学教室連絡先:〒060‐8586 北海道札幌市北区北13条西7丁目山崎 裕1.はじめに 味覚障害といえば亜鉛欠乏で発生し,治療には亜鉛の補充が必要と頭に浮かぶ歯科医師は多いと思われる.これは,従来より耳鼻科から原因の種類にかかわらず亜鉛補充療法で約70%の味覚障害が改善する1と発信されてきたことから,「味覚障害=亜鉛欠乏→亜鉛の補充」という図式が医療現場に広く浸透しているためである(図1).そのため,味覚障害に対し,その原因を探索せず条件反射的に亜鉛補充療法としてポラプレジンクを,ビタミン剤や胃腸薬のように漫然と長期にわたって投与し続けている場合がよく見受けられる. 味覚障害で当科を紹介受診する患者は,前医ですでに十分量のポラプレジンク投与が行われていることが多い.味覚障害患者は,血清亜鉛値が本当に低下しているのであろうか.この疑問を解決するため,以前,筆者らは味覚異常を訴えて受診した144例と,性別・年齢に差がない味覚異常以外が主訴の159例の血清亜鉛値を比較した2(図2,3).その結果,味覚異常の訴えと血清亜鉛値の関係は,血清亜鉛値が明らかに低い60μg/ml未満の場合のみにしか認められなかった.血清亜鉛値が明らかに低い患者ではポラプレジンクがよく奏効するが,それ以外の場合には効果が乏しく,また特発性や心因性に対しては20%前後の改善率しか認めなかった2,3. したがって,亜鉛補充療法は必ずしも万能な治療法ではなく,症例を選択して施行すべき治療法と思われる.しかし,従来,他に味覚障害に対し有用とされる治療法は存在しなかったため,やむをえず効果が出るのを期待して長期にわたってポラプレジンクを処方し,それで効果が出なかった場合は次に打つ手がなかなか見当たらなかったのが現状であった.そこで,亜鉛製剤以外で味覚障害に有用な薬剤が期待されていたが,筆者らの研究では特発性と心因性の味覚障害に対しては,ベンゾジアゼピン系の抗不安薬であるロフラゼプ酸エチルの有効性が示された4. 味覚異常を訴えて,他の医療機関をドクターショッピングしてきた患者がこんなことを言っていた.「どこへ行ってもきちんと話を聞いてくれないし,味覚障害の診断と治療治療編臨床力!143the Quintessence. Vol.35 No.3/2016—0631

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