53the Quintessence. Vol.40 No.7/2021—1677 これは第110回歯科医師国家試験問題(2017年D-25)である(解答:d).「アゴが痛いです」「口が開かなくなりました」「アゴを動かすと音がします」,多くの先生が,上記のような患者の訴えを聞いたことがあると思う.こんな患者が来院したとき,どのような対応をしたらいいのであろうか. 顎関節症は歯科医師国家試験にも問題が頻出する疾患で,一般的な歯科疾患と同様に顎関節症の知識も歯科医師には求められている.顎関節症の治療で勘違いされやすいことは,大学病院の専門診療科であってもすべての患者に対して高度な専門治療を行うような疾患ではないということである.多くはGPの先生方が実践できる「基本的な治療(初期治療)」で対応が可能であり,この「基本的な治療」というのは,決して初歩的,応急的な治療という意味ではない.むしろ顎関節症治療の主流であるといっても過言ではなく,顎関節症治療の根幹を成すベーシック治療である1.もちろん咬合治療,外科的療法が必要な症例も存在するが2,3,多くはGPでも対応可能なベーシック治療で患者の症状は緩解する. そこで本稿では,筆者が日常の外来で行っている顎関節症の診断とベーシック治療を解説して,GPの先生方の顎関節症治療の守備範囲,対応方法をご理解いただき,顎関節症に対するハードルを下げていただければと考えている. 「アゴが痛い」「口が開かない」と来院する患者は顎関節症の場合が多く,とくに開口障害の患者の訴えに対しては,まず「顎関節症」が頭に浮かびやすい.しかし,開口障害を認める疾患は他にも多数ある.外傷の直後や智歯周囲炎による開口障害はよく知られており,外傷や炎症所見が捉えられれば開口障害の原因を診断するのは容易である.しかし,原因が捉えられない場合は,「開口障害=顎関節症」という認知バイアスが働きやすい4.とくに注意が必要な開口障害は,開口時の痛みを認めない強固な開口障害で,顎関節症以外の疾患の可能性がきわめて高い.なお,顎関節症で自発性の痛みを認めることは比較的稀である.炎症性疾患(図1):慢性の炎症は口腔外,口腔内ともに所見を捉えにくい.慢性歯周炎や抜歯窩治癒不全などから骨髄炎や蜂巣炎が継発し,開口障害が生じる.腫瘍性疾患(図2):口腔周囲の悪性腫瘍は,初期には無症状に経過し,発見された時点では広範囲に浸潤し開口障害を呈することがある.陳旧性骨折(図3):とくに高齢者において,外傷後,開口障害を認める疾患:炎症性疾患図1a,b a:52歳の男性.顎関節症の紹介にて来院.2週前から急に口が開かなくなったが痛みはない.最大,強制開口距離:11mm.b:初診時パノラマエックス線写真.abアゴの症状を訴えているが,原因は顎関節症か1
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