ザ・クインテッセンス 2022年1月号
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 生物学的幅径は,上皮性付着部と結合組織性付着部の2層から構成されていることは広く知られている(図1).しかしながら,この2つの付着様式は同じ付着という言葉が使われていても生物学メカニズムはまったく別のものである.上皮性付着は「生物学的ルール」の話であり,ここでは,ともに外胚葉性組織であるエナメル質と接合上皮がヘミデスモソーム結合によって結合することで,歯が萌出しているにもかかわらず,その周囲において外胚葉性組織の連続性が維持されているという生物学的原理原則である.上皮性付着部の役割は,全身の体表面と同様に歯の周囲においても解剖学的障壁(バリア)として存在し,細菌や異物の侵入を防ぐことである.一方,結合組織性付着部は「組織の強度」の話であり,ともに中胚葉性組織(外胚葉性間葉組織)であるセメント質と歯肉結合組織がシャーピー線維によって強固に結合している.結合組織性付着の役割は上皮性付着の下層にあって,上方の脆弱なヘミデスモソーム結合を補強している. このように生物学的幅径は,異なる発生由来から成る,異なる2つの層が,異なる目的をもって,異なる方法で結合している.その結果,細菌の存在,食渣の残留,唾液による湿潤などの過酷な口腔内環境に萌出している歯の周囲においてもその周囲環境(つまりは歯肉溝)は健全に保てているのである. 生物学的幅径とは,厚みや付着様式の話にとどまらず,歯の萌出という人体の中でもきわめて特殊な環境において,生体のルールとしての体表面の連続the Quintessence. Vol.41 No.1/2022—0037371)生物学的幅径とは「生物学的防御システム」である歯肉頂角化歯肉(角化上皮)歯肉-歯槽粘膜境歯槽粘膜(非角化上皮)図1 「生物学的幅径」を正しく理解するためには,まずは大前提として歯周組織の解剖学を正確に理解することが肝要である.ここでは,各部の名称の暗記に留まらず,表層と内部構造との位置関係を把握することが重要である.つまり,表層での特徴は深部にまでその影響が及んでおり,組織構造を立体的に把握することが歯周治療を成功に導くキーポイントなのである.遊離歯肉付着歯肉粘膜下組織エナメル質固有層セメント質歯肉溝(角化または錯角化)歯肉溝(錯角化)接合上皮(非角化)結合組織性付着部歯根膜歯槽骨骨膜生物学的幅径1.筆者が「生物学的幅径」を捨てたくない理由歯周組織の正常像

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