日本の歯科医師にとって,ボツリヌス療法は美容診療の印象が強いと思いますが,医科では保険適応疾患も多くあり,さまざまな疾病治療に使用されています.また,欧米では,歯科治療の1つとして取り入れられております. 歯科医院に来院される患者さんのなかには,「歯冠破折や歯根破折,補綴装置の破損を繰り返す」「知覚過敏やくさび状欠損がある」「プラークコントロールが良好なのに歯周ポケットが改善しない」などの主訴をもった患者さんは少なくないかと思います. これらの症状の原因として,過大な咬合力が関係している可能性も高く,それを改善していくうえで“咬合力”をコントロールできるかどうかが重要となります.咬合力の強い患者さんへの治療として,まず理学療法や認知行動療法を行い経過観察していくことが先決となりますが,なかにはそれでも過大な咬合力が改善されない場合もあります. 筆者も10年ほど前に,う蝕が認められないにもかかわらず歯痛に悩まされていました.その時に参加した勉強会でボツリヌス療法を知り,みずからに試し症状が改善したことをきっかけにボツリヌス療法を自院で取り入れるようになりました.現在まで延べ約2,000症例(本稿ではそのうち約1,000症例を分析)の臨床実績を積み重ねてきております. ボツリヌス療法は歯科治療のさまざまな場面において臨床応用が可能であり,術者・患者ともに大きな恩恵をもたらす治療オプションであると考えております.とくに過大な咬合力を改善するための最後の手段として有効な治療法です. そこで本稿では,筆者がこれまでに行ったボツリヌス療法のうち1,000症例の臨床実績を分析し,本治療法の概要とエビデンス,症例を解説していきます.論文内に一部寄稿三ツ林裕巳日本大学医学部内科(臨床教授)日本歯科大学生命歯学部(教授)衆議院議員(元内閣府副大臣,厚生労働省政務官)A Novel Approach for Force Control in Oral and Maxillofacial Region with Botulinum Toxin Injection:From Its Scientific Evidence and Clinical Experi-ence over 1000 Cases98Azusa Furuhataキーワード: ボツリヌス療法,咬合力のコントロール,表面筋電計古畑 梓日本歯科大学附属病院内科(臨床講師)/*古畑歯科医院・古畑いびき睡眠呼吸障害研究所連絡先:*〒107‐0052 東京都港区赤坂6‐15‐1‐2Fthe Quintessence. Vol.41 No.1/2022—0098スマホで動画が見られる!MovieP101,102(使い方:P7参照)特 集 3はじめにそのエビデンスと1,000症例の臨床実績から歯科治療で活用しよう!ボツリヌス療法による新たな力のコントロール
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