形態機能術者も影響を与えていく. しかし,残念なことに遺伝的因子についてはわれわれには変えることができない.われわれにできることは,環境を整え,望ましい成長が得られるように機能と形態の発育の後押しをすることであろう(図1).そして,機能面における発達の後押しが摂食,嚥下訓練を含めた筋機能療法8であり,形態面における成長の後押しの1つが歯列拡大であると考えている. 歯列拡大を含む矯正治療を行う場合には,正常咬合における経時的な特徴を把握したうえで,個々の症例においてどこに問題があり,その解決には何が必要かを判断する必要がある. そのため,まずは正常咬合者の歯列がどのような形態と成長を成しているのかを確認してみたい.歯冠幅径については,すでに述べたように大坪9や瀧上ら5から報告されている(図2,3). また,歯列弓幅径の成長発育については辻野らの図1 遺伝的因子の範囲のなかで,機能と形態が舵を取り歯列は成長していく.術者は,優位な方向へ舵取りをするように機能と形態をサポートしていく.the Quintessence. Vol.41 No.2/2022—033577筆者の考える成長と歯列拡大のイメージ 叢生は過去と比較して増えている,という報告がある2.現在明らかになっていることは,歯は時代とともに大きくなっている3〜6一方で,顎顔面形態においては少なくとも大きくはなっていないようである6,7.歯列弓は,長径においては大きくなっているという報告もあるが,幅径については大きな変化は認められない5,6. 叢生が増えているとするならば,歯は大きくなっているが,歯列弓を含む顎顔面についてはそれほど大きくなってはいないというこのアンバランスな変化に原因がありそうである.これらのことから,成長期に歯列弓の成長を促す試みは意義があるのではないだろうか. また,成長発育は遺伝的因子と環境的因子により影響を受ける.すなわち遺伝的に決められた枠のなかで,機能と形態が個々の環境の下で相互に影響を及ぼしながら成長していく.とくに乳幼児期から小児期においては摂食,嚥下,構音,呼吸などのさまざまな口腔機能を獲得し,その発達が歯列の成長に拡大治療を行う意義正常咬合者における歯の大きさと歯列の成長変化遺伝要因劣優
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