ザ・クインテッセンス 2023年3月号
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1abcdefghijkl◆咬合誘導と犬歯誘導 1958年,D’Amicoは哺乳類(草食動物・肉食動物)から類人猿,原始人,プレホワイトインディアンの頭蓋骨や歯列について,広範な動物学・人類学的研究を行い,『犬歯誘導の起源』23を発表した.D’Amicoはプレホワイトインディアンと現代のカリフォルニアインディアンの永久歯列の比較より犬歯誘導を発想し,なぜ犬歯誘導が重要であるかを述べてきた. しかし,人間が乳歯列から永久歯列になる過程において,どのように犬歯誘導が確立していくかはまったく触れていない.その後,多くの補綴家も,成人の永久歯列において,犬歯誘導を補綴的にどのように再構築するかを,数多くの症例を通して考えてきた.しかし,D’Amicoと同じく,人間が乳歯列から永久歯列になるまで,どのように犬歯誘導が確立していくのかまで考察する補綴家は誰一人もいなかった. やはり乳歯列から永久歯列にいたるまでの研究は,補綴家の範疇ではなく小児歯科専門医の範疇である.しかし,小児歯科専門医は完成した永久歯列において,補綴的に処置し,犬歯誘導を再構築することはほとんどない.また,小児歯科専門書籍,雑誌および論文でも,成長発育期の切歯路の変化の論文50〜53はあるが,犬歯誘導に関連する記述を筆者はみたこともない.小児歯科専門医にとって,犬歯誘導は補綴治療の範疇の補綴用語としてとらえているようで,それらの研究を行った者はいない.以上が過去,犬歯誘導の確立過程を発表した歯科医師が誰一人もいない理由である. 第1回に述べたが,筆者は開業して30年,幼少期や切歯交換期からの咬合誘導を通し,数多くの健全な永久歯列を完成させてきた.たとえ切歯交換期に不正咬合であっても,成長発育期に咬合誘導によって健全な方向へと誘導すると,その多くは犬歯誘導をもつ永久歯列になっていく(図1).また,第1回や第2回で述べたように,8029〜8020達成者のほとんどが犬歯誘導を保っていた.その事実を見るたび,神様は生涯を通して犬歯誘導を望んでいるのではないかと思えてくる.どのように犬歯誘導は確立していくのであろうか? 以下,歯列・歯槽骨・上顎骨・下顎骨・顎関節など顔面頭蓋の成長発育や,乳歯列から永久歯列までの咀嚼経路の変化を通して,犬歯誘導の確立過程を詳しく述べてみたい.the Quintessence. Vol.42 No.3/2023—058193図1a〜l 不正咬合であっても,咬合誘導によって健全な方向へと誘導すると,犬歯誘導をもつ永久歯列になっていく.犬歯誘導の確立過程を発表した歯科医師は今まで誰一人いない!神様は犬歯誘導を望んでいる!神様は犬歯誘導を望んでいる

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